長距離を制限時間内に完走することを目指す「ブルベ」。その最大の敵とも言えるのが、夜間の走行です。街灯一つない真っ暗な峠道、降りしきる雨、そして襲いかかる疲労感。そんな過酷な状況下で、あなたの命と安全を守ってくれる唯一の存在が「ライト」です。しかし、ブルベには一般的なサイクリングとは異なる独自の厳しい装備規定が存在することをご存知でしょうか?
「どのくらいの明るさが必要なの?」「バッテリーは一晩持つのだろうか」「リアライトは点滅でもいいの?」これからブルベに挑戦しようとする方が抱くであろう、これらの疑問や不安。この記事では、ブルベにおけるライトの厳格な規定(ルール)をわかりやすく解説し、完走経験者が実践している選び方のポイントや、本当におすすめできるモデルを具体的にご紹介します。正しい知識と装備で、不安のないナイトライドを手に入れましょう。
ブルベライトの基本!まずはルールと重要性を理解しよう

ブルベに参加するためには、主催団体であるAudax Japan(オダックス・ジャパン)や各国の統括団体が定める規則(BRM規則)を遵守する必要があります。これは単なる形式的なものではなく、参加者の安全を確保するための最低限の生命線です。まずは、このルールを正しく理解することから始めましょう。
ブルベにおけるライトの規定とは(フロント・リア)
ブルベにおけるライトの規定は非常に明確かつ厳格です。まず大前提として、フロントライト(前照灯)とリアライト(尾灯)は、必ず「車両本体に確実に固定」されていなければなりません。ヘルメットやバッグに取り付けたライトだけでは出走が認められないのです。これは、走行中の振動で脱落したり、光軸がずれて対向車や後続車に迷惑をかけたりするのを防ぐためです。
フロントライトに関しては、夕方から明け方まで、そしてトンネル内や雨天などの視界不良時には必ず点灯させることが義務付けられています。このとき求められるのは「十分な光量」です。具体的な数値基準が明記されていない場合もありますが、一般的には「前方10mを確実に照らせる明るさ」が必要とされます。真っ暗な山道で路面の落下物や段差を発見できなければ、落車による大怪我に直結するからです。
リアライトについても同様に、車両への固定が必須です。ここで最も注意すべき点は、「点滅モードのみでの使用は不可」というルールです。少なくとも一つのリアライトは、常時点灯(ずっと光り続けている状態)でなければなりません。これは、後続車との距離感を正確に把握させるためであり、点滅光は距離感が掴みにくく、また長時間の点滅は後続のライダーに対して幻惑(目がチカチカする状態)を引き起こす可能性があるためです。
なぜブルベでは高性能なライトが必要なのか
普段の街乗りや日中のサイクリングであれば、数百ルーメン程度のライトで十分かもしれません。しかし、ブルベのフィールドは全く異なります。コースの多くは信号が少なく交通量の少ない田舎道や山間部に設定されており、夜間は文字通り「漆黒の闇」に包まれます。自分のライトだけが頼りという状況下で、路面のひび割れ、砂利、濡れた落ち葉などを瞬時に判別できなければ、安全に走り続けることは不可能です。
また、ブルベでは疲労が蓄積した状態で夜間走行を行うことになります。脳の処理能力が低下しているとき、薄暗いライトでは路面状況を必死に目で追う必要があり、精神的なストレスと目の疲れを加速させてしまいます。明るく配光の良い高性能なライトを使用することは、単に道が見えるだけでなく、精神的な余裕を生み出し、安全な完走へと導くための投資でもあるのです。
距離によって変わる装備の違い(200km〜600km超)
ブルベの距離カテゴリーによっても、求められる装備レベルは変化します。例えば、最も短い200kmや300kmのカテゴリーでは、ルール上はフロントライト1灯、リアライト1灯でも出走可能な場合があります(主催クラブのローカルルールにより異なる場合もあるため要確認)。しかし、これが400km以上のカテゴリーになると、規定が一気に厳しくなります。
400km以上のブルベでは、夜通し走ることが前提となるため、「フロントライト2灯」の装着が義務付けられることが一般的です。これは、万が一メインのライトが故障したりバッテリーが切れたりした場合でも、即座に走行不能に陥らないためのバックアップ(冗長性)を確保するためです。さらに、リアライトに加えて「ヘルメットに装着する尾灯」の装備も必須となるケースが大半です。このように、距離が延びるほどリスク管理の重要性が増し、それに応じた多重の安全装備が求められるようになるのです。
失敗しないブルベ用フロントライトの選び方

ルールを理解したところで、次は実際にどのようなライトを選べばよいのか、具体的なスペックや機能に焦点を当てて解説します。市場には数多くの自転車用ライトが出回っていますが、ブルベに耐えうる性能を持ったものは限られています。
必要な明るさは何ルーメン?
ライトの明るさを表す単位として「ルーメン(lm)」が使われます。ブルベにおいて推奨される明るさは、最低でも「400ルーメン」、できれば「800ルーメン以上」の最大光量を持つモデルです。ただし、ここで誤解してはいけないのが、「常に最大光量で走るわけではない」という点です。
例えば、800ルーメンの能力を持つライトを、中間の400ルーメンや200ルーメンのモードで使用するのが賢い使い方です。常に最大出力で使い続ければバッテリーはあっという間に尽きてしまいますし、LEDの発熱も問題になります。余裕のある最大光量を持つモデルを選び、状況に応じて出力を調整することで、バッテリー消費を抑えつつ必要な明るさを確保することができます。特にダウンヒル(下り坂)では速度が出るため、遠くまで見通せるハイパワーモードが必須となります。
点灯時間(ランタイム)とバッテリー給電の重要性
ブルベ用ライト選びで最も重視すべきスペック、それは「ランタイム(点灯持続時間)」です。一晩中走ることを想定すると、日没から日の出まで約10時間〜12時間程度ライトを点け続ける必要があります。しかし、高輝度モードで10時間以上持つライトはほとんど存在しません。
そこで重要になるのが、運用方法の工夫です。「ミドルモード(約200〜400ルーメン)で何時間持つか」を基準に選びましょう。カタログ値で8時間〜10時間持つモデルであれば安心です。また、最近の主流はUSB充電式のリチウムイオンバッテリー搭載モデルですが、走行中にモバイルバッテリーから給電しながら点灯できる機能(パススルー充電)があるかどうかも大きなポイントです。これがあれば、本体のバッテリー容量を気にせず、長時間運用が可能になります。
バッテリー選びのヒント
ブルベ中級者以上の多くは、バッテリー自体を交換できる「カートリッジ式」のライトを好んで使用します。予備のバッテリーを持参すれば、充電時間を待つことなく瞬時に満充電状態に復帰できるからです。
配光パターンの違いと見やすさ
明るさ(ルーメン)の数値だけでなく、「配光(光の広がり方)」も極めて重要です。同じ400ルーメンでも、スポットライトのように中心だけを強く照らすタイプと、ワイドに周辺まで照らすタイプでは、見え方が全く異なります。
ブルベに適しているのは、中心だけでなく「足元」や「路肩」まで広く照らしてくれる配光パターンのライトです。カーブの先や路肩の状況をいち早く把握できるためです。また、対向車への眩しさを防ぐために、上方向への光をカットした配慮(カットライン)がなされているモデルを選ぶと、対向車からのパッシングを防ぎ、トラブルを回避できます。海外メーカーの一部にはドイツの安全基準(StVZO)に準拠した、対向車に優しい配光を持つ優れたモデルもあります。
防水性能と耐久性のチェックポイント
ブルベは全天候型のスポーツです。天気予報が晴れでも、山間部では突然のゲリラ豪雨に見舞われることが日常茶飯事です。したがって、ライトの防水性能は妥協できないポイントです。防水性能は「IPX」という規格で表され、ブルベ用としては「IPX4」以上、できれば「IPX6」や「IPX7」といった高い防水性を持つモデルが推奨されます。
IPX4は「あらゆる方向からの飛沫による有害な影響がない」レベルですが、長時間の雨中走行では内部に浸水するリスクがあります。IPX6(暴噴流に対して保護)やIPX7(一時的な水没にも耐える)であれば、豪雨の中でも安心して使い続けることができます。また、充電ポートのゴムカバー(パッキン)がしっかり閉まる構造かどうかも、購入時によく確認しておきましょう。
安全を守る「2灯体制」と予備バッテリーの考え方

400km以上のブルベで義務化されている「2灯体制」。これは単なるルールだから従うのではなく、自分自身の安全マージンを確保するための必須テクニックです。ここでは、なぜ2灯が必要なのか、そしてどのように運用すべきかを深掘りします。
メインライトとサブライトの役割分担
2つのライトを装着する場合、それぞれに役割を持たせるのが効率的です。1つは「メインライト」として、明るさと配光に優れた高性能なモデルを据えます。主に路面を広く照らし、走行ラインを確認するために使います。もう1つは「サブライト」として、ランタイムの長い省エネモデルや、バッテリー交換が容易なモデルを選びます。
基本的な運用としては、平坦な道や登り坂など速度が遅い区間ではサブライトのみ、またはメインライトのローモードを使用し、下り坂や路面状況が悪い区間では2灯とも点灯させて最大光量を確保する、といった使い分けが可能です。また、2つのライトの照射角度を微妙に変える(片方は遠く、片方は手前)ことで、死角のない視界を作り出すこともできます。
万が一のトラブルに備えるバックアップ体制
夜の山中でライトが突然消える恐怖は、経験した人にしかわかりません。原因はバッテリー切れだけでなく、落車の衝撃による破損、雨による浸水によるショート、内部基盤の故障など多岐にわたります。もしライトが1つしかなかった場合、その時点で走行不能(DNF:リタイア)となり、最悪の場合は暗闇の中で救助を待つことになります。
2灯体制であれば、片方が故障しても、もう片方で最低限の走行を続け、安全な場所まで移動したり、コンビニで購入できる乾電池式ライトを繋ぎで購入したりといったリカバリーが可能になります。まさに「命の予備」としての役割を果たしてくれるのです。
モバイルバッテリーでの走行中充電システム
長時間のブルベでは、ライトのバッテリー管理が完走の鍵を握ります。多くのランドヌール(ブルベ参加者)が採用しているのが、大容量モバイルバッテリーからケーブルを伸ばして給電しながら走るスタイルです。ハンドル周りやトップチューブバッグにモバイルバッテリーを収納し、そこからL字型のUSBケーブルなどでライトに接続します。
このシステムのメリットは、ライト本体のバッテリーが切れても給電し続けられる点ですが、注意点もあります。給電中は防水性が低下するモデルが多いため、雨天時にはケーブルを抜いてゴムカバーを閉じる必要があります。また、充電しながらの点灯に対応していないモデルもあるため、事前の確認が必須です。最近では、給電端子自体が防水構造になっている専用ケーブルやライトも登場しています。
MEMO
雨天時の充電対策として、コネクタ部分に自己融着テープを巻いたり、端子周りを覆うカバーを自作したりする工夫も有効です。水濡れによるショートはモバイルバッテリーごと全損するリスクがあるため注意しましょう。
リアライト(テールライト)も超重要!追突されないための装備

フロントライトが「見るための光」なら、リアライトは「見られるための光」です。後方から迫るトラックや自動車に自分の存在をいち早く知らせることは、追突事故を防ぐ唯一の手段です。ブルベ特有のルールと併せて解説します。
常時点灯が必須?リアライトの具体的ルール
前述の通り、ブルベではリアライトの「常時点灯」が義務付けられています(少なくとも1灯)。日本の道路交通法では、反射板(リフレクター)があれば尾灯は点滅でも法的には問題ないケースが多いですが、ブルベの規定はそれより遥かに厳しい基準を設けています。
なぜ常時点灯なのか。それは、点滅する光だけでは、ドライバーが自転車との「距離」や「速度差」を測るのが難しいからです。また、暗闇で強力な赤い光が激しく点滅していると、後続のドライバーや一緒に走る仲間のライダーの目を眩ませてしまい、かえって危険な状況を招くこともあります。メインのリアライトは必ず「点灯モード」で使用し、バッテリーが切れないよう十分なランタイムを持つものを選びましょう。
反射ベストと反射材(リフレクター)との組み合わせ
リアライトの光を補完し、安全性を飛躍的に高めるのが「反射ベスト」と「反射材」です。ブルベでは反射ベスト(または反射たすき等)の常時着用が義務付けられています。これはバッテリー切れのリスクがなく、車のヘッドライトを受けて強烈に光るため、ドライバーへのアピール度は抜群です。
さらに、自転車本体にも反射板(リフレクター)を取り付けることが推奨されます。特に「おにぎり」の愛称で親しまれている大型の三角形リフレクターなどは、ブルベライダーの象徴的な装備とも言えます。自ら発光する「アクティブセーフティ(リアライト)」と、光を反射する「パッシブセーフティ(反射材)」を組み合わせることで、二重の安全網を構築するのです。
ヘルメットライト(尾灯)は補助として有効
400km以上のブルベで必須となるヘルメット尾灯。これは高い位置で光るため、遠くからの被視認性が非常に高いのが特徴です。車体に取り付けたリアライトは、道路の起伏やガードレールによって隠れてしまうことがありますが、ライダーの頭部は常に高い位置にあるため、後方車両から発見されやすくなります。
ヘルメット尾灯に関しては「点滅モード」での使用が許可されている場合が多いです(規定を確認してください)。メインの車体用リアライトを常時点灯させ、ヘルメット用を点滅させることで、常時点灯の距離感の掴みやすさと、点滅の注意喚起力の「いいとこ取り」をすることができます。軽量でコンパクト、かつ防水性のあるモデルを選びましょう。
経験者が選ぶ!ブルベにおすすめのライトメーカーとモデル

最後に、多くのブルベライダーが実際に使用し、信頼を寄せている具体的なメーカーとモデルを紹介します。選び方に迷ったら、まずはこれらの定番モデルから検討することをおすすめします。
定番のCATEYE(キャットアイ)VOLTシリーズ
日本のブルベ界で圧倒的なシェアを誇るのが、CATEYEの「VOLT(ボルト)」シリーズです。特に「VOLT800 NEO」や旧モデルの「VOLT800」は、名機として絶大な信頼を得ています。
最大の理由は「カートリッジバッテリーシステム」です。ねじ込み式のバッテリーを予備として持っていけば、数秒で交換して満充電状態に戻せます。専用の充電クレードルを使えばモバイルバッテリーからの急速充電も可能。配光も素晴らしく、耐久性、防水性、マウントの入手性の良さなど、すべてにおいて高水準でバランスが取れています。迷ったらこれを選べば間違いありません。
コスパで人気のGaciron(ガシロン)やOLIGHT(オーライト)
近年、急激にユーザーを増やしているのが中華系ハイブランドのライトです。代表格は「OLIGHT(オーライト)」のRN1500や、「Gaciron(ガシロン)」のV9シリーズなどです。これらの魅力はなんといってもコストパフォーマンスの高さです。
CATEYEと同等の明るさを持ちながら、価格は半額近くで購入できるモデルもあります。また、Garmin(ガーミン)のマウントと互換性があるモデルが多く、サイクルコンピューターの下にスマートに取り付けられる点も人気の理由です。ただし、専用の交換バッテリーがない一体型モデルが多いため、モバイルバッテリーからの給電運用が前提となるケースが多い点には注意が必要です。
長時間稼働するおすすめのリアライトの特徴
リアライトでおすすめなのは、CATEYEの「OMNI 5(オムニ5)」や「OMNI 3 AUTO」といった乾電池式モデルです。単4電池を使用するため、コンビニで電池調達が可能で、点灯モードでも数十時間という驚異的なランタイムを誇ります。充電の手間がなく、予備電池さえあれば無限に走れる安心感は絶大です。
また、「TIGHT(タイト)」というモデルは、その名の通り防水パッキンが強固で、完全防水に近い性能を持っています。泥や水しぶきを浴び続けるリアライトにとって、このタフさは大きな武器になります。最近では、ブレーキをかけると強く光る加速度センサー付きのモデル(キネティック)も人気ですが、頻繁に光るためバッテリー消費が早い点には注意しましょう。
実際にブルベライダーが愛用している組み合わせ例
最後に、実際のブルベ現場でよく見かける「鉄板の組み合わせ」を紹介します。
- フロント: CATEYE VOLT800 NEO(メイン) + VOLT400 NEO(サブ・予備バッテリー共通)
- フロント別案: OLIGHT RN1500(メイン・給電運用) + CATEYE VOLT400(バックアップ)
- リア: CATEYE OMNI 5(常時点灯・乾電池) + ヘルメットに小型ボタン電池式ライト(点滅)
このように、電源の種類(充電式と乾電池式)を分散させたり、マウント方式を変えたりして、あらゆるトラブルに対応できるように工夫しているのがベテランライダーの特徴です。
まとめ:ブルベライトを万全にして完走を目指そう
ブルベにおけるライトは、単に道を照らす道具ではなく、あなたを生きて家に帰すための生命維持装置です。Audax Japanの規定を遵守することはもちろんですが、自分自身のスキルや走行計画に合わせて、十分すぎるほどの装備を整えることが完走への近道です。
「400ルーメン以上の明るさを確保する」「点灯時間を計算し予備バッテリーを持つ」「リアは常時点灯を徹底する」「2灯体制でリスクを分散する」。これらのポイントを押さえておけば、夜の闇はもう恐れる対象ではありません。万全のライティング装備で、素晴らしいブルベの世界を安全に楽しんでください。



