新しく購入したロードバイクやクロスバイクのスペック表を見て、「テクトロ(TEKTRO)」という名前のブレーキがついていることに気づいた方もいるかもしれません。
インターネットで検索すると「効かない」「交換すべき」といった厳しい意見を目にすることもあり、不安に感じているのではないでしょうか。しかし、テクトロブレーキは決して危険な製品ではありません。
世界中の多くの自転車に採用されている実績があり、正しい知識とちょっとした工夫で十分に快適に使うことができます。この記事では、テクトロブレーキの特徴やシマノ製品との違い、そして低コストで性能を引き出すためのコツについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。
テクトロブレーキの基本情報と多くの自転車に採用される理由

まずは、テクトロというメーカーがどのような会社なのか、そしてなぜこれほど多くの完成車に採用されているのかについて解説します。名前を聞いたことがない方にとっては「謎のメーカー」かもしれませんが、実は自転車業界では非常に大きな存在感を持つ企業です。
世界屈指の自転車部品メーカー「TEKTRO」
テクトロ(TEKTRO)は、自転車大国である台湾に拠点を置く、ブレーキシステムを専門とする大手部品メーカーです。1986年の創業以来、長年にわたりブレーキ関連パーツの開発・製造を行っており、その生産規模は世界トップクラスを誇ります。決して「無名の怪しいブランド」ではなく、確かな技術力と生産体制を持ったグローバル企業です。
完成車への採用率が高い理由
テクトロブレーキが多くのエントリー〜ミドルグレードの自転車に採用されている最大の理由は、「コストパフォーマンスの高さ」にあります。自転車メーカーが完成車を販売する際、全体の価格を抑えつつ必要な安全性能を確保するために、シマノ製よりも安価で信頼性のあるテクトロ製品が選ばれることが多いのです。これは「コストダウン」の一環ではありますが、決して安全性を犠牲にしているわけではありません。
上位ブランド「TRP」の存在
テクトロには、レース向けのハイエンド商品を展開する「TRP(Tektro Racing Products)」というブランドがあります。TRPのブレーキは、カーボン素材やチタンパーツを使用した高級品で、プロのレースシーンやシクロクロス、グラベルロードなどで高い評価を得ています。このように、テクトロは安価な製品だけでなく、世界最高峰の性能を持つブレーキを作る技術力も有しているメーカーなのです。
テクトロブレーキは効かない?実際の性能と評判の真実

インターネット上の掲示板やSNSでは、「テクトロは止まらない」という極端な意見が見られることがあります。これから乗る方にとっては一番気になるところでしょう。ここでは、その評判の真偽と、実際に感じる使用感について正直にお伝えします。
「効かない」という噂の正体
結論から言うと、「テクトロブレーキだから止まれずに事故になる」ということはまずありません。日本で正規に販売されている自転車に付いている以上、JIS規格やISO規格などの安全基準をクリアしています。
ではなぜ「効かない」と言われるかというと、シマノの上位グレード(105やアルテグラなど)と比較した際に、「同じ握力で握ったときの制動力が弱い」ためです。つまり、完全に停止するためには、シマノ製よりも少し強めにレバーを握る必要がある、というのが正確な表現です。
剛性の違いによるフィーリング
ブレーキの性能を語る上で重要なのが「剛性(ごうせい)」です。剛性とは、変形のしにくさを指します。テクトロのエントリーモデルは、シマノの上位モデルに比べてブレーキ本体(キャリパー)の剛性がやや低く作られています。
そのため、急ブレーキをかけようと強くレバーを握ると、アーム自体がわずかにたわんでしまい、力が逃げてしまう感覚があります。これが、ライダーに「スポンジを握っているようなフニャッとした感触」を与え、「カチッと止まらない」という評価につながっています。
雨天時の制動力について
もう一つの弱点として挙げられるのが、標準装備されているブレーキシュー(ゴムパッド)の質です。テクトロ純正のシューは、耐久性を重視して硬めの素材が使われていることが多く、その分、リムへの食いつきが甘くなる傾向があります。
特に雨の日や路面が濡れている状況では、制動力が低下しやすいと感じるライダーが多いようです。ただし、これは後述する「シューの交換」で劇的に改善できるポイントでもあります。
テクトロブレーキとシマノブレーキの具体的な違い

自転車パーツの王様である「シマノ(SHIMANO)」とテクトロでは、具体的に何が違うのでしょうか。価格差だけではない、設計思想や使い勝手の違いについて比較してみましょう。
コントロール性能の差
シマノのブレーキ、特に「105」以上のグレードは、コントロール性能(モジュレーション)に優れています。指先の微妙な力加減に対して、リニアにブレーキ力が立ち上がるため、スピードの微調整が容易です。
一方、テクトロのエントリーモデルは、「効き始めが緩やかで、奥でギュッと効く」あるいは「ある一点で急にロックする」といったクセがある場合があります。初心者が街乗りでゆっくり走る分には問題ありませんが、峠道の下り坂などで繊細なスピードコントロールを求められる場面では、シマノに分があります。
メンテナンスと耐久性
構造的な耐久性に関しては、テクトロも十分に頑丈です。すぐに壊れるようなことはありません。しかし、ボルト類のサビやすさや、可動部の精度の高さという点では、やはりシマノ製品の方が一枚上手です。
また、補修パーツの入手性においても、シマノ製品は全国どこの自転車店でも手に入りやすいのに対し、テクトロの細かい補修部品は取り寄せに時間がかかる場合があります。
ブレーキパッド(シュー)の品質
最も大きな違いを感じるのが、ゴム部分であるブレーキシューの質です。シマノのシューは制動力とコントロール性のバランスが非常に良く、リムへの攻撃性も考慮されています。
テクトロの初期装備シューは、コストを抑えるために安価な素材が使われていることが多く、これが「テクトロは効かない」という評価の8割以上の原因を作っていると言っても過言ではありません。
テクトロブレーキの効きを良くするカスタムと調整

ここがこの記事で最もお伝えしたいポイントです。「テクトロだからブレーキ本体を丸ごと買い替えなきゃダメ?」と考える前に、もっと安く、手軽に性能をアップさせる方法があります。以下のステップを試すだけで、見違えるほどブレーキが効くようになります。
【最重要】ブレーキシューをシマノ製に交換する
最も効果的で、かつ低コストなのが、「ゴムの部分(ブレーキシュー/パッド)だけをシマノ製の上位グレードに変える」という方法です。
ブレーキ本体はテクトロのままでも、シューをシマノの「R55C4」などのグレードに交換するだけで、制動力は劇的に向上します。費用も千円〜二千円程度で済み、費用対効果は抜群です。「まずはシューだけ交換」が、テクトロユーザーの鉄則です。
ブレーキ面(リム)の清掃と脱脂
意外と見落としがちなのが、ホイールのリム(ブレーキが当たる金属面)の汚れです。ここには路面の油分や、削れたゴムのカス、アルミの酸化被膜などが付着しています。
パーツクリーナー(脱脂洗浄剤)をウエスに染み込ませ、リム面を黒い汚れが付かなくなるまでしっかり拭き上げてください。これだけでブレーキの食いつきが復活し、音鳴りの防止にもなります。
ケーブルの潤滑と取り回しの見直し
ブレーキレバーの引きが「重い」と感じる場合、原因はブレーキ本体ではなく、ワイヤー(ケーブル)にあることが多いです。
インナーワイヤーに専用のグリスを薄く塗布したり、ケーブル内にオイルを垂らすことで、レバーの引きが軽くなり、結果として強い力でブレーキをかけやすくなります。もしケーブルが錆びている場合は、新品(できればシマノ製のステンレスケーブル)に交換しましょう。
トーイン調整(ハの字セッティング)
ブレーキの「音鳴り」や「カックンブレーキ」を防ぐための調整テクニックです。ブレーキシューを、進行方向に対してわずかに「ハの字」になるように固定します。
シューの後ろ側に厚紙などを挟んで固定することで、シューの前方が先にリムに触れるようになり、ブレーキのタッチがマイルドになり、コントロール性が向上します。少し難易度が高いので、自信がない場合はショップに依頼しましょう。
それでも不満ならキャリパー本体の交換を
上記の対策をすべて行っても、なお「下り坂での不安が消えない」「もっとカチッとした操作感が欲しい」と感じる場合は、ブレーキ本体(キャリパー)をシマノ製(105グレード以上推奨)に交換することを検討してください。
剛性が上がり、驚くほど安心して止まれるようになります。ただし、最近のロードバイクはフレームによって取り付け規格(ダイレクトマウントなど)が異なるため、購入前には必ず適合を確認してください。
種類別テクトロブレーキの特徴とメンテナンス

一言にテクトロブレーキと言っても、いくつかの種類があります。自分の自転車に付いているタイプを確認し、それぞれの特徴に合わせた付き合い方をしましょう。
ロード用キャリパーブレーキ(デュアルピボット)
ロードバイクの完成車によく付いているタイプです。近年のモデルは「デュアルピボット」という構造になっており、昔のものより制動力は上がっています。前述した「ブレーキシューの交換」が最も効果を発揮するタイプです。
定期的に左右のバランス調整(センタリング)を行う必要がありますが、プラスドライバー1本で調整できるモデルも多く、メンテナンス性は良好です。
クロスバイク用Vブレーキ
「ESCAPE R3」などのクロスバイクに多く採用されているのがVブレーキです。構造上、非常に強力な制動力を持っており、テクトロ製であっても「効かない」と感じることは稀です。むしろ効きすぎてタイヤがロックすることに注意が必要です。
片効き(左右のバネの強さが不均等になること)が起きやすいので、プラスドライバーでバネ調整ネジを回してバランスを取るメンテナンスが重要です。
機械式(メカニカル)ディスクブレーキ
ワイヤーで引くタイプのディスクブレーキです。メンテナンスが簡単で、輪行などもしやすいのがメリットですが、油圧式に比べるとレバーを握る力が必要です。
テクトロの機械式ディスクは、パッドが減ってくるとブレーキの引きしろが大きく変わるため、こまめな調整が必要です。また、パッドとローターの隙間調整がシビアな場合があるため、音鳴りがしやすい傾向にあります。
油圧式ディスクブレーキ
最近のエントリーロードやMTBに増えているタイプです。テクトロの油圧ディスクブレーキは、実は評価がそれほど悪くありません。レバーのタッチも軽く、制動力も十分です。
ただし、オイル交換(ブリーディング)には専用のキットが必要になります。シマノのオイルとは互換性がない場合が多いため、メンテナンスは基本的にプロショップに任せるのが安心です。
テクトロブレーキの特徴を知って快適な自転車ライフを
今回は、テクトロブレーキの評判や性能、シマノ製品との違いについて解説しました。要点をまとめます。
記事のポイントまとめ
・テクトロは世界的な大手メーカーであり、製品は安全基準を満たしている。
・「効かない」という評判は、初期装備のブレーキシューや剛性の違いによるフィーリングの差が大きい。
・最も効果的なカスタムは、「ブレーキシュー(ゴム)だけをシマノ製に交換する」こと。
・リムの清掃やケーブルのメンテを行うことで、本来の性能を引き出せる。
・不安があれば、最終手段としてブレーキ本体をシマノ(105以上)へアップグレードする。
テクトロブレーキがついているからといって、すぐに自転車を買い替えたり、高額なパーツ交換を焦ったりする必要はありません。まずは安価なブレーキシューの交換や、丁寧なメンテナンスから始めてみてください。それだけで、愛車の乗り心地と安全性は大きく向上します。
自分の走り方や予算に合わせて、賢くブレーキと付き合っていきましょう。安全で楽しい自転車ライフを応援しています!



