自転車のメンテナンスにおいて、チェーンの交換は避けては通れない重要な作業です。しかし、いざ新しいチェーンを購入しようとしてインターネットやカタログを見ると、「1/2 × 1/8」や「11s」「HG」といった謎の数字や記号が並んでおり、戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか。チェーンはどれも同じように見えますが、実は自転車のタイプや変速段数によって厳密に規格が決められています。
もし間違ったサイズのチェーンを取り付けてしまうと、変速がうまく決まらなかったり、最悪の場合は走行中にチェーンが切れて事故につながったりする恐れもあります。安全で快適なサイクリングを楽しむためには、自分の自転車に適合する正しいチェーンサイズを知ることが不可欠です。この記事では、複雑に見えるチェーンサイズの読み方を、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。
チェーンサイズの見方でまず知っておくべき「3つの数字」

自転車のチェーンサイズを理解するためには、パッケージや製品仕様に記載されている寸法の意味を知る必要があります。一見すると複雑な分数や数字の羅列に見えますが、基本的には3つの要素で構成されています。これらが何を指しているのかを理解するだけで、チェーン選びのハードルはぐっと下がります。
ピッチ(Pitch)とは何か
チェーンサイズにおける最初の数字、たとえば「1/2」と表記されている部分は「ピッチ」を表しています。ピッチとは、チェーンのローラー(可動部分の丸い軸)とローラーの中心間の距離のことです。この距離は、自転車のチェーンにおいては世界共通の規格となっており、ほとんど全ての自転車で「1/2インチ(約12.7mm)」が採用されています。
つまり、ママチャリであっても、最新のロードバイクであっても、あるいはBMXであっても、この「ローラー間の距離」自体は同じなのです。そのため、チェーン選びにおいてはこの最初の「1/2」という数字については、あまり深く悩む必要はありません。「自転車のチェーンは基本的に1/2インチピッチである」ということを知識として持っておくだけで十分です。
内幅(Inner Width)の重要性
チェーン選びで最も重要になってくるのが、2番目に表記される数字、すなわち「内幅」です。これはチェーンの内側のプレート間の距離を指しており、チェーンリング(前のギア)やスプロケット(後ろのギア)の歯の厚みに対応しています。代表的なサイズには「1/8インチ」や「3/32インチ」、「11/128インチ」などがあります。
この内幅が合っていないと、ギアの歯がチェーンの隙間に入らなかったり、逆に隙間が大きすぎてガタついたりしてしまいます。例えば、ギアの歯が厚い自転車に内幅の狭いチェーンを装着することは物理的に不可能です。逆に、薄い歯に広いチェーンを使うと、横方向の遊びが大きくなりすぎて変速性能が著しく低下します。自分の自転車がどの内幅を必要としているかを確認することが、サイズ選びの第一歩となります。
外幅(Outer Width)と変速段数
3つ目の重要な要素が「外幅」です。これはチェーンの外側のプレートから反対側のプレートまでの全体の厚みを指します。特に外装変速機(ディレイラー)が付いている自転車において、この外幅は極めて重要な意味を持ちます。なぜなら、後ろのギア(スプロケット)の枚数が増えれば増えるほど、ギア同士の間隔は狭くなるからです。
ギアの間隔が狭いということは、そこで動くチェーンも薄く(外幅が狭く)ならなければなりません。もし、多段変速の自転車に外幅の広いチェーンを使ってしまうと、隣のギアにチェーンが擦れてしまい、ノイズが発生したり勝手に変速してしまったりするトラブルが発生します。パッケージには直接「外幅〇mm」と書かれていないことも多いですが、「対応段数」がこの外幅を示唆しています。
表記の実例とその意味
では、実際にどのような表記がされているのか、具体的な例を見てみましょう。チェーンの箱には以下のような記述が一般的です。
【表記例1】 1/2″ × 1/8″
ピッチが1/2インチで、内幅が1/8インチのチェーン。
【表記例2】 1/2″ × 3/32″
ピッチが1/2インチで、内幅が3/32インチのチェーン。
【表記例3】 1/2″ × 11/128″
ピッチが1/2インチで、内幅が11/128インチのチェーン。
このように、最初の1/2は固定で、後ろの分数が内幅を表しています。そして、これらの数字だけでは判断しきれない「外幅」については、通常「9 Speed」「11 Speed」といった対応変速段数として大きく記載されています。したがって、厳密な分数の計算をするよりも、「車種タイプ」と「変速段数」を合わせることが、正しいサイズを見分ける近道となります。
自転車の種類によるチェーン規格の違い

チェーンサイズの見方がわかったところで、次は具体的な車種ごとにどのサイズが使われているのかを見ていきましょう。自転車は大きく分けて、日常使いの「一般車(いわゆるママチャリ)」と、スポーツ走行を楽しむ「スポーツバイク」に分類されます。それぞれのカテゴリーで標準的に使われている規格が異なります。
一般車(シングルスピード・内装変速)の場合
シティサイクル、ママチャリ、あるいはピストバイク(トラックレーサー)やBMXなどの変速機がない自転車、またはハブの中に変速機が組み込まれている「内装変速」の自転車では、主に「1/2 × 1/8」サイズが使用されます。このサイズは通称「厚歯(あつば)用チェーン」とも呼ばれます。
このタイプのチェーンは、頑丈で耐久性が高いのが特徴です。変速のためにチェーンを斜めに動かす必要がないため、構造がシンプルで厚みがあります。もしご自身の自転車が変速なしか、ハンドル部分でカチカチと回すタイプの内装3段変速であれば、ほぼ間違いなくこのサイズを選べば問題ありません。
外装変速付き自転車(ロード・クロス・MTB)の場合
一方で、クロスバイク、ロードバイク、マウンテンバイクなど、後輪に何枚ものギアが重なっている「外装変速機」がついた自転車では、「1/2 × 3/32」または「1/2 × 11/128」サイズが使用されます。これらは通称「薄歯(うすば)用チェーン」と呼ばれます。
外装変速機付きの自転車は、ディレイラーを使ってチェーンを隣のギアへと移動させるため、チェーン自体にしなやかさと、狭い隙間に入り込む薄さが求められます。先ほど紹介した「厚歯用」のチェーンをこれらの自転車に取り付けようとしても、ギアの歯に対してチェーンの幅が合わず、また隣のギアに干渉してしまうため使用できません。
厚歯と薄歯の決定的な違い
ここで「厚歯」と「薄歯」という用語について整理しておきましょう。これはチェーンリング(ギア板)の厚みを指す言葉ですが、それに対応するチェーンの呼び名としても使われます。厚歯用のチェーン(1/8インチ幅)は内幅が広いため、物理的には薄歯のギア(変速機付き自転車)に取り付けること自体は可能です。
しかし、その逆はできません。薄歯用のチェーン(3/32インチ幅など)は内幅が狭いため、厚歯のギアには物理的に嵌まりません。また、厚歯チェーンを薄歯のギアに使うと、左右のガタつきが大きくなりすぎてチェーン外れの原因になります。基本的には「厚歯のギアには厚歯チェーン、薄歯のギアには薄歯チェーン」という組み合わせを厳守する必要があります。
変速段数(スピード)とチェーン幅の密接な関係

スポーツバイクにおいてチェーンサイズの見方を最も複雑にしているのが、「変速段数」による規格の違いです。同じ「薄歯用チェーン」であっても、後ろのギアが何枚あるかによって、選ぶべきチェーンの外幅が厳密に異なります。ここでは、変速段数ごとの違いと注意点を深掘りして解説します。
6速・7速・8速の互換性と特徴
エントリーグレードのクロスバイクやロードバイク、あるいは少し良いグレードのシティサイクルでよく見られるのが、後ろのギアが6枚から8枚のタイプです。実は、6速、7速、8速のチェーンは、多くの場合で互換性があります。メーカーによっては「6/7/8速用」として一つのパッケージで販売されていることも珍しくありません。
このクラスのチェーンサイズは、一般的に「1/2 × 3/32」という規格が採用されています。チェーンの外幅は約7.1mmから7.3mm程度です。比較的幅が広いため耐久性が高く、調整もシビアすぎないため、初心者でも扱いやすい規格と言えます。ただし、古い規格や一部のボスフリー用などでは微妙に仕様が異なる場合もあるため、念のため「8 Speed対応」などの表記を確認することをおすすめします。
9速・10速チェーンの細分化
変速段数が9速、10速と増えてくると、事情が変わってきます。ここからは明確に専用のチェーンが必要となり、下位グレードとの互換性はなくなります。9速用チェーンの外幅は約6.6mm〜6.8mm程度、10速用チェーンは約5.88mm〜6.0mm程度と、段数が増えるごとに目に見えて薄くなっていきます。
特に10速の時代には、シマノ製品の中でロードバイク用とマウンテンバイク用でチェーンの方向性や互換性が複雑な時期がありました。現在では統一されつつありますが、10速用チェーンを選ぶ際は、自分の自転車がロード系コンポーネントなのか、MTB系なのかを確認し、適合表をチェックする慎重さが求められます。また、内幅に関しても「11/128インチ」という表記が多く見られるようになります。
11速・12速など多段化による狭小化
現代の高性能ロードバイクやハイエンドMTBで主流となっている11速や12速になると、チェーンは極限まで薄くなります。11速用の外幅は約5.6mm前後、12速用になると約5.2mm前後になります。ここまで薄くなると、もはや8速時代のチェーンとは別物のような精密部品と言えます。
このクラスでは、メーカー間の互換性もよりシビアになります。例えば、シマノの12速とSRAMの12速では、設計思想が異なる部分もあり、純正同士の組み合わせが強く推奨されます。特にシマノの最新の12速(ハイパーグライド+)は、チェーンのプレート形状が特殊で、専用のチェーンリングと組み合わせることで最高の性能を発揮するように設計されています。高価な機材を守るためにも、必ずコンポーネントメーカーが指定する純正、または明確に対応を謳っているサードパーティ製を選びましょう。
なぜ段数が増えるとチェーンが薄くなるのか
初心者が抱きがちな疑問として、「なぜ変速が増えるとチェーンが薄くなるのか」という点があります。これは、自転車のフレームのエンド幅(後輪がハマる部分の幅)が決まっているからです。限られたスペースの中に、8枚、9枚、12枚とたくさんのギアを詰め込もうとすれば、必然的にギア1枚あたりの厚みを削り、ギア同士の間隔を詰めるしかありません。
ギアの間隔が狭くなれば、当然そこを通るチェーンも薄くしなければ、隣のギアに接触してしまいます。この「薄く作る」という技術は非常に高度であり、強度を保ちながら薄型化するために、素材や熱処理、プレートの設計などが進化し続けています。多段用のチェーンが高価になるのは、こうした技術料が含まれているからなのです。
間違ったサイズを使った場合のリスク
「たった数ミリの違いなら、使えるのではないか?」と考える方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。例えば、9速の自転車に8速用のチェーンを取り付けたとしましょう。8速用チェーンは9速用に比べて幅が広いため、狭い9速のスプロケットの間に入り込むと、隣のギアに常に擦れて「チャラチャラ」と異音が鳴り続けます。
逆に、8速の自転車に11速用の極薄チェーンを付けた場合はどうでしょうか。今度はチェーンの内幅が狭すぎるため、ギアの歯に奥まで噛み合わず、浮いたような状態になります。これでは力が伝わらないばかりか、強い力で踏み込んだ瞬間に「歯飛び」を起こし、バランスを崩して転倒する危険性があります。変速段数に合ったチェーンを使うことは、快適性だけでなく安全性を確保するために絶対に必要な条件なのです。
シマノなどのメーカー刻印や型番の確認方法

チェーンサイズの見方として、実物を観察して特定する方法も非常に有効です。現在装着されているチェーンが純正品であれば、そこには重要な情報が刻印されています。ここでは、世界最大の自転車パーツメーカーであるシマノ(SHIMANO)を例に、刻印の読み方や型番の意味について解説します。
チェーン側面の刻印を見る
自転車に付いているチェーンをよく観察してください。油汚れで見にくい場合は、ウエスで少し拭き取ってみましょう。チェーンの外側のプレート側面に、アルファベットや数字の刻印があるはずです。例えば、「CN-HG53」や「CN-HG901」、「KMC X11」といった文字が見つかるでしょう。
シマノの場合、型番は通常「CN(Chain)」から始まります。その後に続くアルファベットと数字が、グレードや対応段数を表しています。この型番をそのままインターネットで検索すれば、そのチェーンが何速用なのか、どのグレードなのかが一発でわかります。パッケージがない状態でサイズを知りたい場合、この「側面の刻印」を確認するのが最も確実な方法です。
シマノ製品のグレードと互換性
シマノのチェーンには、デュラエース(DURA-ACE)やアルテグラ(ULTEGRA)、105といったグレードが存在します。基本的に、同じ変速段数(例えば11速同士)であれば、グレードが違っても互換性があります。105のコンポーネントを使っている自転車に、最高級のデュラエースのチェーンを使うことは、むしろ変速性能の向上や軽量化につながるため、よく行われるカスタムの一つです。
ただし、世代間の互換性には注意が必要です。同じ「10速」でも、旧型の規格と現行の規格で推奨される組み合わせが異なる場合があります。シマノは公式ウェブサイトで詳細な「互換性チャート」を公開しています。型番を確認したら、交換用チェーンを購入する前に一度このチャートを確認すると安心です。
ミッシングリンクのサイズ合わせ
最近では、チェーンの着脱を工具なしで簡単に行える「ミッシングリンク(クイックリンク)」を使用する人が増えています。このミッシングリンクにも、当然ながらサイズがあります。「11速用ミッシングリンク」を10速チェーンに使うことはできません。
ミッシングリンクを選ぶ際も、チェーン本体と同様に「変速段数」を基準に選びます。KMCなどのチェーンメーカーからは、各段数に対応したミッシングリンクが販売されています。また、再利用が可能かどうか(リユース可か、使い捨てか)も製品によって異なるため、パッケージの注意書きをよく読むようにしましょう。チェーンサイズの見方をマスターしていれば、こうした小物パーツ選びで失敗することもなくなります。
主なチェーンメーカー
・SHIMANO(シマノ):最も一般的。変速性能に定評あり。
・KMC(ケーエムシー):多くの完成車に採用。ミッシングリンクが有名。
・SRAM(スラム):MTBやロードで人気。独自規格も多い。
・CAMPAGNOLO(カンパニョーロ):イタリアの老舗。専用規格が多い。
チェーンの長さ(リンク数)の決め方と調整

正しい規格(幅や段数)のチェーンを購入しても、そのままでは長すぎて自転車に取り付けることができません。新品のチェーンは、様々な自転車に対応できるように長めに作られているからです。最後に、チェーンサイズの見方の仕上げとして、適切な長さ(リンク数)への合わせ方を解説します。
古いチェーンを基準にする方法
最も簡単で間違いが少ないのは、これまで付いていた古いチェーンと同じリンク数(コマ数)に合わせる方法です。これは、スプロケットの歯数やフレームサイズを変更していない場合に有効です。
手順はシンプルです。取り外した古いチェーンと、新しいチェーンを床に並べます。古いチェーンは伸びている可能性があるため、長さではなく「コマの数」を数えて合わせるのがポイントです。あるいは、並べてみてコマの位置を合わせ、同じリンク数になる位置で新しいチェーンをカットします。この方法は計算の必要がなく、初心者の方にもおすすめです。
スプロケット最大歯数による計算方法
ゼロから自転車を組む場合や、スプロケットのサイズ(歯数)を大きく変更した場合は、改めて最適な長さを算出する必要があります。一般的な方法として、シマノなどが推奨している手順があります。
基本的には、チェーンを前後の「一番大きいギア(アウター×ロー)」に掛けた状態を基準にします。この状態で、ディレイラーを通さずにチェーンを回し、ピンと張ったところから「プラス2リンク」などの余裕を持たせた長さでカットします。ただし、この「適正な余裕」は、リアサスペンションの有無やディレイラーの機種によって異なるため、マニュアルを確認しながら慎重に行う必要があります。
※注意:フルサスペンションMTBの場合は、サスペンションが動いた時にチェーンの必要長が変化するため、空気を抜いてボトムさせた状態で長さを計測する必要があります。
プーリーの位置で判断する方法
もう一つの確認方法として、実際にディレイラーにチェーンを通し、変速位置によってプーリー(ディレイラーの小さな歯車)がどのような位置に来るかを見る方法があります。
例えば、アウター(前・大)×トップ(後ろ・小)に入れたとき、リアディレイラーの2つのプーリーの中心線が地面と垂直になる長さが良いとされる場合があります。これらはあくまで目安の一つですが、長すぎるとチェーンがたるんでフレームを叩き、短すぎるとギアを壊してしまうリスクがあります。長さの決定は、チェーン交換作業の中で最も緊張する瞬間ですが、基本ルールを守れば決して難しくはありません。
チェーンカッターの必要性
最後に、チェーンの長さを調整するには「チェーンカッター」という専用工具が必須であることを覚えておいてください。これはチェーンのピンを押し出して切断(実際には分解)するための道具です。
チェーンカッターにも、実は対応するチェーンサイズがあります。特に11速や12速のような薄いチェーンは、ピンの精度が高いため、精度の低い安価なチェーンカッターや、対応していない古い工具を使うと、プレートを歪めてしまうことがあります。チェーンのグレードに合わせた適切な工具を用意することも、チェーンサイズの見方とセットで覚えておきたいポイントです。
まとめ:チェーンサイズの見方を理解して正しいメンテナンスを
自転車のチェーンサイズの見方は、一見すると難解な数字の羅列に思えるかもしれません。しかし、重要なポイントは以下の3点に集約されます。
まず、ピッチは基本的に「1/2インチ」で共通であること。次に、チェーンの内幅や外幅は「変速段数(スピード)」によって厳密に決められていること。そして、購入する際は「車種」と「後ろのギアの枚数」を確認すれば、正しい規格の商品を選べるということです。
「厚歯」と「薄歯」の違いや、メーカーの型番の読み方を知っていれば、自分の自転車に最適なチェーンを迷わずに選ぶことができます。また、正しい長さに調整することで、変速性能を最大限に引き出し、トラブルのない快適なライドを楽しむことができます。
チェーンは消耗品であり、定期的な交換が必要です。今回解説したサイズの見方を参考に、ぜひご自身で愛車のチェーン選びと交換にチャレンジしてみてください。正しい知識に基づいたメンテナンスは、自転車への愛着をより一層深めてくれるはずです。



