自転車に乗っていて、「最近なんだか変速の調子が悪いな」と感じることはありませんか?もしかすると、それはチェーンの寿命が近づいているサインかもしれません。自転車のチェーンは消耗品であり、長く使っていると少しずつ「伸び」が発生します。この伸びを放置すると、ギアやスプロケットといった高価なパーツまで傷めてしまう原因になります。
チェーンの交換時期を知るためには、専用の「チェーンチェッカー」を使うのが一般的ですが、実は工具箱にある「ノギス」を使っても正確に測定することができます。「チェーン」「伸び」「測定」「ノギス」というキーワードで検索されたあなたは、きっと愛車を自分の手でメンテナンスしたいという熱心なサイクリストでしょう。
この記事では、ノギスを使ってチェーンの伸びを測定する具体的な方法や、交換時期の判断基準について、初心者の方にもわかりやすく解説します。数値を正しく読み解くことで、感覚ではなくデータに基づいたメンテナンスが可能になります。ぜひ最後まで読んで、愛車のコンディション管理に役立ててください。
ノギスでチェーンの伸びを測定するメリットと基礎知識

まずは、なぜチェーンが伸びるのか、そしてなぜその測定にノギスが有効なのか、基本的な知識からお話しします。仕組みを理解することで、測定の重要性がより深くわかります。
チェーンが「伸びる」とはどういう現象か
多くの人が「チェーンが伸びる」と聞くと、金属のプレートがゴムのようにビヨーンと引き伸ばされる様子をイメージするかもしれません。しかし、実際には金属プレートそのものが伸びているわけではありません。これはメンテナンスにおける非常に重要なポイントです。
チェーンの伸びとは、実は「ピン」と「ローラー」が摩耗して、隙間が広がる現象のことを指します。チェーンは多数のリンクがピンで繋がれており、ペダルを漕ぐたびにこの接続部分が回転し、摩擦が起きます。長い距離を走るうちに、金属同士が擦れ合って削れ、そのわずかな隙間の蓄積がチェーン全体の長さとして現れるのです。
つまり、「伸び」=「摩耗の進行度合い」と言い換えることができます。汚れや油切れの状態で走ると、砂利や金属粉が研磨剤のような働きをしてしまい、この摩耗を一気に加速させてしまいます。だからこそ、こまめな洗浄と注油が必要なのです。
専用チェッカーではなくノギスを使う理由
自転車ショップには「チェーンチェッカー」という便利な専用工具が売られています。これをチェーンに差し込むだけで、「交換が必要か、まだ使えるか」が一瞬でわかります。それなのに、あえてノギスを使うメリットはどこにあるのでしょうか。
最大のメリットは、「具体的な数値で摩耗具合を把握できる」という点です。チェーンチェッカーの多くは「0.75%伸びたらアウト」といった合否判定しかできません。「あとどれくらいで寿命が来るか」という途中経過を知ることは難しいのです。
一方、ノギスを使えばミリ単位(あるいはそれ以下)で現在の長さを測定できます。「新品の時と比べてこれくらい伸びているから、あと1000kmくらいは走れそうだな」といった予測が立てやすくなります。自分の機材の状態を数値で管理したい理系思考のサイクリストにとって、ノギスは最強のツールとなります。
ノギス測定に向いている人と向いていない人
ノギスによる測定は非常に正確ですが、誰にでもおすすめできるわけではありません。まず、ノギスという工具の扱いに慣れていないと、測定のたびに数値がバラバラになってしまう可能性があります。正確に垂直に当て、適切な力加減で測る技術が少しだけ必要です。
また、計算や数値の管理が面倒だと感じる方には、差し込むだけのチェーンチェッカーの方が向いています。ノギス測定は「愛車のデータを細かく取りたい」「工具を使うこと自体が好き」「手持ちのノギスを有効活用したい」という方に向いている方法です。
逆に言えば、ノギスでの測定方法をマスターしてしまえば、チェーンチェッカーをわざわざ購入する必要がなくなります。汎用性の高いノギスは、シートポストの径を測ったり、ボルトのサイズを確認したりと、自転車整備のあらゆる場面で活躍します。一つ持っておいて損はない工具と言えるでしょう。
準備するものとノギスの正しい使い方

それでは、実際に測定を行うための準備に入りましょう。正確な数値を出すためには、道具選びと事前の準備が欠かせません。
デジタルノギスとアナログノギスの違い
ノギスには大きく分けて「デジタル式」と「アナログ式(バーニヤスケール)」の2種類があります。チェーンの伸び測定において、どちらが良いか迷う方もいるでしょう。
結論から言うと、初心者には圧倒的に「デジタルノギス」がおすすめです。チェーンの伸びは0.1mm単位の微細な変化を見極める必要があります。アナログ式の場合、目盛りを目視で読み取る必要があり、慣れていないと読み間違いが発生しやすいのです。老眼気味の方や、薄暗いガレージで作業する方にとっては、デジタル表示の恩恵は計り知れません。
もちろん、アナログノギスでも測定は可能です。電池切れの心配がなく、構造がシンプルで壊れにくいというメリットがあります。もし手元にアナログノギスがある場合は、目盛りの読み方をしっかり復習してから作業に入りましょう。これから購入する場合は、150mmまで測定できる一般的なサイズを選べば、自転車整備には十分です。
測定前に必ず行うべきチェーンの清掃
いきなり汚れたチェーンにノギスを当ててはいけません。チェーンに付着した油汚れや砂利、泥などは、測定の精度を大きく狂わせる原因になります。わずか0.1mmのゴミが挟まるだけで、測定結果が「交換不要」から「即交換」に変わってしまうこともあるのです。
測定前には、パーツクリーナーとウエスを使って、測定する箇所のコマをきれいに拭き上げてください。特に、ノギスのジョウ(測定端子)が当たるローラー部分は念入りに掃除します。ピカピカにする必要はありませんが、少なくとも固形物が残っていない状態にすることが大切です。
また、このタイミングでチェーン全体を目視チェックし、プレートのひび割れや変形がないかも確認しておくと良いでしょう。伸びていなくても、物理的な損傷があれば即交換が必要です。
ノギスの基本的な取り扱いと注意点
ノギスは精密測定機器です。乱雑に扱うとすぐに精度が落ちてしまいます。まず、測定前には必ずジョウを閉じて「ゼロ点合わせ」を行ってください。デジタルノギスの場合は「ZERO」ボタンを押して表示を0.00mmにします。
測定時は、ジョウの先端だけでなく、できるだけ根元に近い部分を使うと安定しますが、チェーン測定の場合は形状的に先端を使うことが多くなります。そのため、ノギスを斜めにせず、対象物に対してまっすぐに当てることが重要です。
メモ: ノギスを落としたり、強い衝撃を与えたりするのは厳禁です。使い終わったら、汚れを拭き取り、専用のケースに入れて保管しましょう。湿気の多い場所に放置すると錆びて使い物にならなくなるので注意してください。
実践!ノギスを使ったチェーンの伸び測定手順

ここからがいよいよ本番です。ノギスを使ってチェーンの伸びを測定する具体的な手順を解説します。今回は、一般的に行われている「内部測定法」と呼ばれる、ローラーの内側を測る方法を中心にご紹介します。
チェーンにテンションをかける重要性
測定を始める前に、チェーンの状態を整える必要があります。チェーンがたるんだ状態で測定しても、正確な数値は出ません。各リンクの「ガタ(遊び)」を最大限に広げた状態で測る必要があるからです。
自転車をメンテナンススタンドに固定するか、壁に立てかけます。そして、ペダルに少し負荷をかけるか、手でクランクを逆回転させないように固定しながら、チェーンの上側がピンと張るようにします。誰かに手伝ってもらってリアブレーキを軽くかけてもらい、ペダルを踏み込む方向に力を加えると、チェーン全体にしっかりとテンションがかかります。
この「テンションをかける」という工程を飛ばすと、実際の伸びよりも短い数値が出てしまい、交換時期を見誤ることになります。必ずチェーンが張った状態で測定を行いましょう。
測定するリンク数を決める(一般的には6〜10リンク)
次に、何コマ分を測定するかを決めます。自転車のチェーンは、1リンク(ピンからピンまでの距離)が半インチ、つまり約12.7mmで作られています。1コマだけ測っても誤差が大きすぎるため、通常は複数のリンクをまとめて測定し、その合計値で判断します。
ノギスで測りやすい長さとして、一般的には「10リンク(約127mm)」や「6リンク(約76.2mm)」程度を目安にします。150mmのノギスを持っている場合、10リンク程度が測りやすく、計算もしやすいのでおすすめです。
測定範囲が長ければ長いほど、1リンクあたりの誤差が平均化されて精度が高まりますが、ノギスの長さの限界もあります。ご自身の手持ちのノギスのサイズに合わせて、無理のない範囲を設定してください。
ノギスのジョウを当てる位置(内側計測法)
ここで具体的なノギスの当て方を説明します。今回は「ローラーの内側」にノギスの「内測用ジョウ(クチバシのような部分)」を当てて測る方法を紹介します。
【測定手順】
1. デジタルノギスの電源を入れ、ゼロセットします。
2. ノギスを130mm程度まで開きます。
3. 測定したい区間の両端にあるローラーの内側に、ノギスの内測用ジョウを差し込みます。
4. ノギスをさらに広げるように力を加え、ローラーの内側にしっかりと当てます。
5. 数値が安定したら読み取ります。
この方法の場合、厳密には「ピン間の距離」ではなく、「ローラー間の距離」を測っていることになります。そのため、ローラー自体の摩耗分も測定値に含まれますが、チェーン交換の判断としてはこの方法で十分実用的です。
複数箇所で測定して平均値を出す
チェーンの摩耗は、必ずしも全体で均一に進むわけではありません。よく使うギアの噛み合わせ部分や、メンテナンスが行き届いていなかった箇所だけ極端に伸びていることもあります。
そのため、1箇所だけ測定して安心するのは危険です。チェーンを回しながら、最低でも3〜4箇所、できればチェーン全体をまんべんなくランダムに選んで測定してください。
測定した中で「最も伸びている数値」を基準に交換時期を判断するのがセオリーです。「平均的には大丈夫」でも、一部だけ限界を超えて伸びていると、そこで歯飛びを起こしたり、チェーン切れのリスクが高まったりするからです。
測定数値で判断するチェーンの交換タイミング

測定ができたら、その数値が何を意味するのかを判断しなければなりません。「まだ使えるのか?」「もう限界なのか?」。ここでは具体的な数値基準と計算方法を解説します。
新品の基準値と伸び率の計算式
まず、基準となる「新品の状態での長さ」を知っておく必要があります。自転車用チェーンのピッチは12.7mmです。例えば10リンク分(ピン10個分の距離)を測る場合、理論上の長さは以下のようになります。
12.7mm × 10 = 127.0mm
ただし、先ほど紹介した「ローラーの内側で測る方法」の場合、ローラーの直径分や遊びを考慮する必要があります。シマノなどの一般的なチェーンの場合、10リンク分のローラー間(内-内)の新品時の距離は、およそ119.5mm〜120mm前後になることが多いです(※チェーンのグレードやメーカーによりローラー径が微妙に異なるため、新品時に一度自分のチェーンを測っておくのがベストです)。
伸び率を計算する簡易的な式は以下の通りです。
少し難しく感じるかもしれませんが、要は「新品の時よりどれくらい長くなったか」を見れば良いのです。例えば、新品時に120.0mmだった箇所が121.0mmになっていれば、約0.8%伸びていることになります。
交換推奨ライン:0.75%と1.0%の壁
一般的に、チェーンの交換時期は以下の伸び率が目安とされています。
- 伸び率 0.5% 〜 0.75%:交換推奨時期(特に11速、12速などの多段チェーン)
- 伸び率 0.75% 〜 1.0%:一般的な交換時期(8速〜10速など)
- 伸び率 1.0%以上:使用限界(スプロケットやチェーンリングへのダメージ大)
最近のロードバイクやMTBで主流となっている11速や12速のチェーンは、プレートが薄く設計されているため、0.5%程度の伸びで早めに交換することが推奨されています。粘って使い続けると、変速性能がガクンと落ちてしまいます。
もし交換時期を過ぎて使い続けるとどうなる?
「まだ切れていないし、使えるなら使おう」と交換を先延ばしにするのは、経済的にもおすすめできません。伸びたチェーンは、スプロケット(後ろのギア)やチェーンリング(前のギア)の歯とピッチが合わなくなります。
ピッチが合わないまま使い続けると、硬いチェーンが比較的柔らかいギアの歯を削り取ってしまいます。こうなると、いざチェーンを新品に交換したときに、今度は削れたギアと新品チェーンが噛み合わず、「歯飛び」を起こしてまともに走れなくなります。
結果として、数千円のチェーン交換をケチったために、数万円するスプロケットやチェーンリングまで全交換することになります。早めのチェーン交換は、愛車を長く安く維持するための賢い節約術なのです。
測定時の注意点とよくある間違い

ノギスでの測定は便利ですが、ちょっとしたことで誤差が出やすいのも事実です。最後に、測定時に陥りやすいミスや注意点をまとめました。
測定結果が毎回バラバラになる原因
「測るたびに数値が違う…」という経験はありませんか?その最大の原因は、「手ブレ」と「角度」です。
ノギスをチェーンに対して斜めに当ててしまうと、実際よりも長い距離(斜辺)を測ってしまうことになります。ノギスはチェーンの進行方向に対して平行に、かつ垂直に当てる必要があります。また、ノギスを持つ手に力が入りすぎたり、逆に弱すぎたりしても数値は変わります。一定の力加減でローラーに当てる感覚を掴むには、何度か練習が必要です。
対策として、一度の測定で数値を確定せず、同じ箇所を3回測ってその中間値を取るなど、自分なりのルールを決めると良いでしょう。
ローラーの摩耗と「伸び」の混同
先述した通り、チェーンの「伸び」の正体はピンとブッシュの摩耗です。しかし、ノギスでローラーの内側を測る方法では、ローラー自体の内側が削れた分や、ローラーの外径が削れた分も数値に含まれてしまうことがあります。
ローラー自体がガタついている場合、実際のピッチの伸び以上に大きな数値が出ることがあります。これはこれで「チェーンの寿命」であることに変わりはありませんが、厳密な「ピッチの伸び」とは少し異なることを頭の片隅に置いておいてください。
チェーンチェッカーの中には、このローラーのガタつきをキャンセルして、純粋なピンの伸びだけを測れる「3点式」などの高級ツールもあります。より厳密さを求めるなら、そうした専用工具の導入を検討しても良いでしょう。
11速・12速チェーン特有のシビアさ
最新の11速や12速コンポーネントを使用している方は、特に注意が必要です。これらのチェーンは非常に精密に作られており、わずかな伸びでも変速性能に悪影響が出ます。
例えば、0.5%の伸びでも、変速がもたついたり、異音が鳴り始めたりすることがあります。「まだ1.0%いっていないから大丈夫」と過信せず、変速のフィーリングが悪くなったら、数値にかかわらず交換を検討する勇気も必要です。ノギスの数値はあくまで「目安」であり、最終的な判断は「走りの快適さ」で決めるのが、楽しい自転車ライフの秘訣です。
まとめ:ノギスでチェーンの伸びを測定して快適な走りを維持しよう
今回は、ノギスを使って自転車のチェーンの伸びを測定する方法について解説しました。専用のチェーンチェッカーがなくても、ノギスがあれば数値を可視化し、適切なメンテナンス時期を見極めることができます。
記事のポイントを振り返ってみましょう。
- チェーンの伸びは「摩耗」による隙間の広がりである。
- ノギスを使うことで、摩耗の進行度合いを数値で管理できる。
- 測定前には必ずチェーンを洗浄し、テンションをかけた状態で測る。
- 内側計測の場合、新品時の長さを把握しておくと伸び率が出しやすい。
- 0.75%〜1.0%の伸びが交換の目安だが、多段変速なら早めの交換が吉。
- 交換をサボると、高価なギアパーツまで道連れにしてしまう。
チェーンは自転車のパーツの中でも最も過酷な環境で働いている部品の一つです。定期的にノギスでコンディションをチェックする習慣をつけることで、トラブルを未然に防ぎ、いつでも気持ちよくペダルを回すことができます。今度の週末は、ぜひ愛車のチェーンを測ってみてください。その数値が、次のメンテナンスの道しるべになるはずです。



