ロードバイクやクロスバイクなどのスポーツ自転車に深くハマっていくと、必ずたどり着くのが「ホイール」の奥深い世界です。完組ホイールの性能も素晴らしいですが、自分の好みや走りのスタイルに合わせてパーツを選び、一本一本スポークを編み上げていく「手組みホイール」には、既製品にはないロマンと魅力が詰まっています。そこで重要になるのが、今回のテーマである「スポークの組み方」です。
「JIS組み」や「イタリアン組み」、あるいは「ラジアル組み」といった言葉を聞いたことはあるけれど、具体的に何が違うのか、どちらを選べばいいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。スポークの編み方ひとつで、ホイールの剛性や乗り心地、見た目、そして空気抵抗までもが大きく変化します。この記事では、初心者の方にもわかりやすく、スポークの組み方の種類やそれぞれのメリット・デメリットを丁寧に解説していきます。理想の走りを実現するための第一歩を、ここから踏み出しましょう。
スポークの組み方・種類を知る前に押さえたい基礎知識

スポークの組み方について詳しく見ていく前に、まずはホイールそのものの構造や、なぜ組み方がそれほどまでに重要なのかという基礎知識を整理しておきましょう。ここを理解しておくと、後述する「イタリアン組み」や「ラジアル組み」の違いがよりスムーズに頭に入ってきます。
自分だけの1本を作る「手組みホイール」の世界
自転車ショップに並んでいる完成されたホイールは「完組(かんぐみ)ホイール」と呼ばれ、メーカーが専用設計したパーツで最高の性能が出るように作られています。一方で、ハブ、リム、スポーク、ニップルといった部品をバラバラに購入し、自分(あるいは職人)の手で組み上げるのが「手組みホイール」です。
手組みホイールの最大の魅力は、自由度の高さにあります。「体重が重いからとにかく頑丈にしたい」「通勤で使うから乗り心地を最優先にしたい」「クラシックな見た目のシルバーホイールが欲しい」といった個別のニーズに対して、完璧な回答を用意できるのです。そして、その性格を決定づける重要な要素こそが、今回解説するスポークの組み方なのです。
ホイールを構成する3大要素:ハブ・リム・スポーク
ホイールは主に3つのパーツで構成されており、それぞれが役割を持っています。これらがスポークによって繋がることで、一つの構造体として機能します。
・ハブ
ホイールの中心にある回転部品です。フレームに固定され、内部のベアリングによって回転します。スポークを通すための穴が開いた「フランジ」という円盤状の部分があります。
・リム
タイヤが装着される外側の輪っかの部分です。ブレーキの摩擦を受け止めたり、タイヤの空気圧を支えたりします。
・スポーク
ハブとリムを繋ぐ細い棒です。通常はステンレス製が一般的です。一本一本は細い針金のようなものですが、適切な張力(テンション)で組むことで、驚くほどの強度を生み出します。
組み方を変えるということは、ハブからリムへ向かうスポークの角度や重なり方を変えることを意味します。これにより、力の伝わり方や空気の流れが変わるのです。
ホイール性能を左右する「テンション」と「剛性」
スポーク組みの話で頻繁に登場するのが「テンション」と「剛性」という言葉です。テンションとは、スポークを引っ張る力の強さのことです。ニップル(ネジ)を締め込むことでスポークが強く張られ、ホイールとしての形を保ちます。
一方、剛性とは「変形のしにくさ」を指します。ペダルを強く踏み込んだときや、コーナーを曲がるときにホイールがヨレてしまうと、力が逃げてしまいます。適切な組み方と高いスポークテンションによって高い剛性を確保することで、反応の良い「進むホイール」になります。ただし、剛性が高すぎると路面からの衝撃がダイレクトに伝わり、疲れやすくなることもあるため、バランスが重要です。
組み方の基本概念「交差(クロス)」と「綾取り」
スポークの組み方を分類する際、最も大きな違いは「スポーク同士が交差しているか、していないか」です。交差させる組み方を「タンジェント組み」、交差させない組み方を「ラジアル組み」と呼びます。
タンジェント組みでは、スポーク同士が重なる部分で接触させることが一般的です。これを「綾取り(あやとり)」や「編む」と表現します。具体的には、交差する2本のスポークのうち、片方をもう片方の下にくぐらせるように通します。こうすることでスポーク同士が支え合い、振動による緩みを防いだり、横方向への剛性を高めたりする効果が期待できます。
代表的なスポーク組み方の種類:タンジェント組み

ここからは具体的な組み方の種類を解説していきます。まずは自転車ホイールにおいて最も基本であり、大多数の自転車に採用されている「タンジェント組み」です。ママチャリからロードバイクまで幅広く使われていますが、その中にもいくつかの種類が存在します。
駆動力を逃さないタンジェント組みのメカニズム
タンジェント(Tangent)とは「接線」という意味です。ハブの中心から放射状にまっすぐ伸ばすのではなく、ハブの回転方向に対して斜め(接線方向)にスポークを伸ばして組む方法です。この構造の最大のメリットは、「回転させる力(駆動力)」と「止める力(制動力)」を効率よく伝えられることです。
ペダルを踏んでハブが回転しようとするとき、斜めに配置されたスポークが突っ張ることで、その力をリムへと伝達します。もしスポークが真横に伸びていなかったら、ハブだけが空回りするような力がかかってしまい、効率よく進みません。そのため、大きな力がかかる後輪(リアホイール)は、ほぼ間違いなくこのタンジェント組みが採用されます。
JIS組み(日本工業規格)の特徴
JIS組みは、その名の通り日本工業規格(JIS)で定められていた組み方で、一般車(ママチャリ・シティサイクル)で広く採用されている方法です。
この組み方の最大のメリットは、生産効率が良いことです。ホイールを組む際、左右を同じ手順で作業できるため、機械組みや量産に適しています。性能面では、加速時の反応性やブレーキ時の安定性のバランスが取れており、日常的な使用において十分な強度を持っています。ただし、スポーツ走行における極限の性能を追求する場合、後述するイタリアン組みの方が好まれる傾向にあります。
イタリアン組みの特徴
ロードバイクやクロスバイクなどのスポーツ自転車で、手組みホイールを作る際に最も標準とされるのが「イタリアン組み」です。多くの完組ホイールも、このイタリアン組みの考え方をベースに設計されています。
イタリアン組みの特徴は、左右のスポークの並び方が「点対称」のような関係になることです。具体的には、後輪において、ペダルを踏んだ時に強いテンションがかかる「ドライブスポーク(ヤマアラシ方向のスポーク)」を、ハブフランジの内側から外側へ向けて通すように配置します。
なぜ「内から外」が良いのでしょうか。フランジの外側に出たスポークは、内側のスポークよりもさらに外側に位置することになります。これにより、スポークが支える幅(ワイドフランジ効果)が擬似的に広がり、横方向の剛性が高まるとされています。また、万が一チェーンが外れてスプロケットとスポークの間に落ちた際、ドライブスポークが内側から外へ向かっていると、チェーンが噛み込みにくく、スポークへのダメージを最小限に抑えられるというメリットもあります。
逆イタリアン組み(リバースイタリアン)とは
「逆イタリアン組み」は、その名の通りイタリアン組みとは逆の配置にする方法です。通常、リムブレーキのロードバイクの後輪ではイタリアン組みが正解とされますが、ディスクブレーキ搭載車の場合は事情が変わります。
ディスクブレーキは、ハブに取り付けられたローターをキャリパーで挟んで制動します。つまり、ブレーキをかけた瞬間、ハブにはペダリング時とは逆方向の強烈なねじれ力が発生します。この「制動力」に耐えるために最適化されたのが逆イタリアン組みであり、ディスクブレーキ車のフロントホイールなどでよく採用されています。
メリットとデメリットの整理
タンジェント組みの種類について見てきましたが、ここで一度整理しておきましょう。
JIS組み
・メリット:左右の手順が同じで組みやすい、メンテナンス性が良い。
・デメリット:スポーツ走行特有の負荷に対してはイタリアンに劣る場合がある。
イタリアン組み
・メリット:駆動効率が良い、横剛性が確保しやすい、チェーン落ち時のトラブルに強い。
・デメリット:左右で通し方が異なるため、組む際に少し慣れが必要。
手組みホイールに挑戦する際は、リムブレーキ車ならまずは「イタリアン組み」をマスターするのがおすすめです。
スッキリした見た目が人気のラジアル組み

次に紹介するのは、見た目が非常にシンプルで美しい「ラジアル組み」です。タンジェント組みとは全く異なる構造を持ち、明確な目的を持って採用される組み方です。
ラジアル組みの構造と特徴
ラジアル(Radial)とは「放射状」という意味です。その名の通り、ハブの中心からリムに向かって、スポークが一直線に伸びる組み方です。スポーク同士が一切交差しないため、見た目が非常にスッキリとしており、整然とした美しさがあります。
多くのロードバイクの完成車において、リムブレーキモデルの「フロントホイール」は、ほとんどがこのラジアル組みで構成されています。なぜなら、フロントホイール(リムブレーキ)には駆動力がかからず、ハブをひねるような大きなトルクが発生しないため、交差させて強度を稼ぐ必要性が薄いからです。
空気抵抗と軽量化のメリット
ラジアル組みを選ぶ最大の理由は、性能面でのメリットにあります。まず一つ目は「軽量化」です。スポークはハブからリムへ最短距離で繋がるため、交差させるタンジェント組みに比べてスポークの長さが短くなります。一本あたりの差はわずかですが、数十本集まれば数グラムから数十グラムの軽量化に繋がります。
二つ目は「空気抵抗の低減」です。スポークはホイールが回転する際、常に空気を切り裂いています。ラジアル組みはスポーク同士の交差部分がないため、前方投影面積が小さくなり、空気の乱れを抑えることができます。また、見た目のシンプルさからくるドレスアップ効果も高く、愛車をスタイリッシュに見せたい人にも人気があります。
ハブへの負担と使用上の注意点
良いこと尽くめに見えるラジアル組みですが、重大なデメリットも存在します。それは「ハブフランジへの負担が非常に大きい」という点です。
スポークがハブの中心から真っ直ぐ外側へ引っ張られるため、ハブの穴(スポーク穴)には外側へ引きちぎろうとする力が常に強くかかります。最悪の場合、走行中にハブフランジが割れて破損してしまうリスクがあります。そのため、シマノなどの大手ハブメーカーでは、「ラジアル組み禁止」と明記されているハブも存在します。ラジアル組みを行う際は、必ずラジアル組みに対応した強化ハブを使用する必要があります。
採用される場面(フロント・リアの使い分け)
ラジアル組みを採用できる場所は限られています。
- リムブレーキのフロントホイール: 最も一般的で推奨される場所です。
- リムブレーキのリアホイール(反フリー側): 片側だけラジアルにするケースがあります。ギアがない左側(反フリー側)は駆動トルクの影響が比較的少ないため、軽量化と左右のテンションバランスを整える目的で採用されることがあります。
- ディスクブレーキ車: 基本的にNGです。ディスクブレーキはハブに制動力がかかるため、ラジアル組みではねじれに耐えきれず危険です。
- 駆動輪(リアのフリー側): 基本的にNGです。ペダリングの力が逃げてしまい、進まないホイールになってしまいます。
個性を出す特殊なスポーク組み方の種類

基本のタンジェント組みとラジアル組みを理解したところで、ここからは少しマニアックな「特殊な組み方」を紹介します。これらは実用性以上に、見た目のインパクトや特定の性能を追求したカスタマイズとして愛好されています。
モランボン組み(ねじり組み)
一度見たら忘れられない強烈なインパクトを持つのが「モランボン組み」です。別名「ツイスト組み」とも呼ばれます。通常のタンジェント組みのように交差させるだけでなく、交差するスポーク同士をグルグルと数回ねじって絡ませる組み方です。
その見た目はまるで芸術作品のようで、停車中の自転車でも圧倒的な存在感を放ちます。ピストバイクなどのストリート系カスタムで人気があります。理論上は、ねじることでスポークが引っ張り合い、剛性が高まるとも言われていますが、スポークへの負担が極端に大きくなるため、折れやすくなるリスクも伴います。組み立てには高度な技術と忍耐力が必要で、ショップによっては作業を断られることもあります。
ソルダリング(結線)の効果
組み方そのものというよりは、組み上げた後の追加加工に近いですが、「ソルダリング(結線)」という手法があります。これはタンジェント組みでスポークが交差している部分を、細い針金で縛り上げ、ハンダ付けして固定する方法です。
競輪用のホイールなどで古くから行われている伝統的な手法で、スポーク同士のズレを完全になくし、ホイール全体の剛性を極限まで高める効果があります。踏み込んだ力がダイレクトに推進力に変わるため、加速性能が向上します。ただし、乗り心地は非常に硬くなるため、ロングライド向きとは言えません。
その他の特殊なパターン(クロウフットなど)
他にも、機能美を追求した様々な組み方が存在します。
・クロウフット組み
1本のラジアル組みスポークと、2本のタンジェント組みスポークをセットにして配置する独特なパターンです。鳥の足(Crow Foot)のように見えることから名付けられました。ラジアルとタンジェントの「いいとこ取り」を狙った設計です。
・2:1組み(ツー・トゥー・ワン)
一部の高級完組ホイール(フルクラムやカンパニョーロなど)で採用されている方式です。リアホイールのフリー側(ギア側)のスポーク本数を、反対側の2倍にする組み方です。左右のスポークテンションの差を是正し、バランスの良いホイールに仕上げることができます。
組み方を選ぶ際の判断基準とシチュエーション

ここまで様々な組み方を見てきましたが、実際に自分でホイールを組む、あるいはオーダーする場合、どのように選べばよいのでしょうか。いくつかの判断基準を紹介します。
用途に合わせた選び方(レース・ロングライド)
まずは、その自転車で「何をしたいか」を明確にしましょう。
レースやヒルクライムで勝ちたい場合:
反応性を重視するため、リアは剛性の高いイタリアン組み(または結線)がおすすめです。フロントは軽量化のためにラジアル組みが良いでしょう(リムブレーキの場合)。
ロングライドやツーリングを楽しむ場合:
長距離を快適に走るためには、過度な剛性は疲れの原因になります。標準的なタンジェント組み(イタリアンやJIS)で、スポーク本数を少し多め(32本など)に設定することで、衝撃吸収性が高くトラブルに強いホイールになります。
リムハイトとスポーク長の関係
使用する「リムの高さ(リムハイト)」も組み方に影響します。ディープリムと呼ばれる高さのあるリムを使用する場合、スポークの長さは短くなります。短いスポークは変形しにくいため、ホイール全体が硬くなりやすい傾向があります。
逆に、高さの低いクラシックなリムを使う場合はスポークが長くなり、しなやかな乗り心地になります。リムの特性に合わせて、硬くしたいなら交差数を減らす、しなやかにしたいなら交差数を増やす(6本組みや8本組みなど)といった微調整も、手組みホイールならではの楽しみ方です。
初心者が最初に挑戦すべき組み方は?
もしあなたが初めて手組みホイールに挑戦するのであれば、以下の組み合わせから始めることを強くおすすめします。
- ブレーキタイプ: リムブレーキ
- フロント: ラジアル組み(構造がシンプルで理解しやすい)
- リア: イタリアン6本組み(最も標準的で教科書通りの組み方)
この組み合わせは、情報も多く、トラブルも少ない「鉄板」の仕様です。まずは基本をマスターし、スポークテンションの感覚や振れ取りの技術を身につけてから、特殊な組み方やディスクブレーキ用ホイールへのステップアップを目指しましょう。
まとめ:スポーク組み方の種類を理解して理想のホイールへ
自転車のホイールは、スポークの組み方ひとつで全く異なる性格を見せてくれます。最後に、今回ご紹介した主なポイントを振り返りましょう。
- タンジェント組み: スポークを交差させる基本の組み方。駆動力・制動力をしっかり伝える。
- イタリアン組み: スポーツ車のリアホイールの王道。剛性とトラブル耐性に優れる。
- ラジアル組み: 交差させない放射状の組み方。軽量で美しいが、駆動輪やディスクブレーキには不向き。
- 用途に合わせる: 剛性重視ならタンジェントや結線、軽量化重視ならラジアルを適材適所で選ぶ。
「スポーク組み方種類」を知ることは、自転車の走る仕組みを深く理解することでもあります。完組ホイールを買ってポンと付けるのも良いですが、自分の走り方に合わせて、スポーク一本一本の役割まで考え抜かれた手組みホイールには、他には代えがたい愛着が湧くはずです。ぜひこの記事を参考に、あなただけの理想のホイールについて想像を巡らせてみてください。



