「今の自転車のギアをもっと軽くしたい」「ブレーキの効きを良くしたい」そう思ったとき、真っ先に思い浮かぶのがパーツの交換ではないでしょうか。しかし、シマノのコンポーネントには非常に複雑な「互換性」のルールが存在します。
同じ11速だからといって使えるとは限らず、間違った組み合わせで取り付けると、変速がうまくいかないばかりか、破損や事故につながる危険性すらあります。そこで今回は、安全にカスタマイズを楽しむための「シマノ互換表」の読み方と、初心者が陥りやすい互換性の落とし穴について、やさしく丁寧に解説します。
シマノ互換表とは何か?基本を知ろう

自転車のカスタムを始めるとき、最初に必ずチェックすべき資料があります。それが、シマノが公式に発行している「互換性チャート(Compatibility Chart)」です。これは、どのパーツとどのパーツが組み合わせて使えるかを、メーカーが公式に保証している図表のことです。ベテランのメカニックでさえ、新しい規格のパーツを扱う際には必ずこの表を確認します。まずは、この表の基本的な役割と見方を押さえておきましょう。
なぜ互換性の確認が重要なのか
自転車の部品は、一見するとどれも似たような形をしていますが、実はミリ単位の精密な設計で動いています。例えば、ブレーキレバーを引いたときにワイヤーが動く量(引き量)や、変速機がチェーンを動かす幅などは、モデルや世代によって微妙に異なります。互換性のないパーツ同士を無理に組み合わせると、ブレーキが十分に効かなかったり、走行中にチェーンが外れて転倒したりするリスクがあります。自分自身の安全を守るため、そして高価なパーツを無駄にしないためにも、互換性の確認は「絶対条件」と考えてください。
シマノ公式サイトでの探し方
正確な互換情報を手に入れるには、必ずシマノの公式サイトを利用しましょう。インターネット上のブログ記事などは情報が古くなっている可能性があります。検索エンジンで「シマノ テクニカルインフォメーション」と検索するか、直接「si.shimano.com」にアクセスします。その中のメニューにある「互換性情報」という項目を選ぶと、ロードバイク、MTB、E-BIKEなど、カテゴリーごとのPDFチャートを見ることができます。常に最新版が更新されているので、カスタムをする直前に毎回確認するクセをつけるのがおすすめです。
PDFチャートの基本的な構造と見方
初めて互換表を開くと、たくさんの線と型番が並んでいて難しく感じるかもしれません。しかし、見方のルールは単純です。基本的には「四角い枠で囲まれた型番」が、実線(または点線)でつながっているもの同士が互換性あり、という意味です。例えば、使いたい変速レバーの型番を探し、そこから伸びている線を辿っていけば、使えるブレーキやディレイラーが見つかります。線がつながっていない、あるいは途切れているパーツ同士は、基本的には使用できません。
自分のパーツ型番を素早く見つけるコツ
互換表は非常に巨大な資料なので、目で追って自分のパーツを探すのは大変です。そこで活用したいのが、PDF閲覧ソフトやブラウザの検索機能です。キーボードの「Ctrl」キーを押しながら「F」キー(Macの場合はCommand + F)を押すと、検索ボックスが出てきます。そこに、自分が今持っているパーツの型番(例:RD-R7000)を入力してみてください。該当する箇所がハイライトされるので、そこを起点にして互換性のあるパーツを辿っていくと、迷わずに正解にたどり着けます。
変速段数と世代による互換性の壁

「変速段数が同じなら使えるだろう」というのは、多くの人が誤解しやすいポイントです。実は、シマノのコンポーネントは、同じ「速数(スピード)」であっても、世代やジャンルが違うと互換性がないケースが多々あります。ここでは、特によくある間違いと注意すべきパターンを解説します。
11速と12速は混ぜられる?
最新のロードバイクは12速が主流になりつつありますが、従来の11速パーツとの互換性は基本的にありません。12速用のチェーンは11速用よりもさらに薄く作られており、スプロケット(後ろのギア)の歯の間隔も異なります。そのため、例えば「ディレイラーだけ12速の最新版にして、レバーは11速のまま使う」といったことは不可能です。段数を変更する場合は、レバー、ディレイラー、チェーン、スプロケット、場合によってはクランクやホイールのフリーボディまで、システム全体を入れ替える必要があると考えましょう。
ロード用とMTB用の違いに注意
同じ変速段数(例えばどちらも10速、11速)であっても、ロードバイク用とマウンテンバイク(MTB)用では、ワイヤーを引く量が異なるため互換性がありません。「余っているMTBのリアディレイラーをロードバイクにつけて、軽いギアを使いたい」と思っても、ロード用のレバーでは正常に変速しないのです。ただし、近年のグラベルロード用コンポーネント「GRX」シリーズなど、一部例外的にミックスできる組み合わせも存在します。これらも必ずチャートで確認が必要です。
新規格「CUES(キューズ)」の登場とLinkglide
最近登場した「CUES」というシリーズには特に注意が必要です。これは従来のコンポーネントとは全く異なる「Linkglide(リンクグライド)」という新規格を採用しています。CUESは9速、10速、11速のラインナップがありますが、これらは従来の「HG(ハイパーグライド)」規格の9・10・11速とは互換性がありません。つまり、同じ「11速」という名前でも、CUESの11速と105(R7000など)の11速は混ぜて使えません。ここを間違えると全く動かないので、新品のパーツを買う際は「Linkglide」か「HG」かを必ずパッケージで確認してください。
ティアグラ4700系の特殊な互換性
ロードバイク用コンポーネントの「Tiagra(ティアグラ)4700シリーズ」は、10速コンポーネントですが、実は11速世代の技術で作られています。そのため、古い10速コンポーネント(5700系105や4600系ティアグラなど)とは互換性がありません。中古パーツなどで「10速用だから使えるはず」と思って古いレバーに4700系のディレイラーを合わせようとすると失敗します。4700系は「4700系同士」で組むのが基本であり、非常に間違いやすいポイントの一つです。
ブレーキシステムの互換性も忘れずに

変速機以上に命に関わるのがブレーキの互換性です。ブレーキも進化の過程で構造が変わっており、レバーとブレーキ本体の組み合わせを間違えると、ブレーキが効きすぎたり、逆に全く効かなかったりする危険があります。
リムブレーキの引き量の違い
リムブレーキ(キャリパーブレーキ)には、大きく分けて3つの世代による規格の違いがあります。「NEW SUPER SLR」「SUPER SLR」「SLR-EV」などです。これらはレバーがワイヤーを引く量(レバー比)が異なります。例えば、最新のレバー(SLR-EV対応)で、非常に古いブレーキキャリパー(SUPER SLR以前)を引くと、ガツンと効きすぎてタイヤがロックしやすくなるなど、コントロール性が著しく低下します。ブレーキに関しては、なるべく同じシリーズ、同じ世代で統一することが最も安全です。
ディスクブレーキのホースとオイル
ディスクブレーキの場合、ホース(オイルライン)の種類の違いに注意しましょう。シマノには主に「BH90」と「BH59」という2種類のホースがあります。上位グレードは高圧に耐えるBH90、下位グレードはBH59が使われることが多いですが、これらを接続するコネクター(インサート金具)の内径が異なります。間違った組み合わせで組むと、オイル漏れや圧力不足の原因になります。レバーとキャリパーの型番を調べ、どちらのホースが指定されているかを確認してください。
マウント方式の違い
ディスクブレーキキャリパーをフレームに取り付ける規格にも種類があります。ロードバイクでは現在「フラットマウント」が主流ですが、少し前のモデルやMTBでは「ポストマウント」が使われています。これらは形状が全く異なるため、直接取り付けることはできません。アダプターを使えば変換できる場合もありますが、ローターサイズ(140mmか160mmか)の制約なども出てくるため、フレームの規格に合ったキャリパーを選ぶのが基本です。
フロント・リアディレイラー交換の落とし穴

「坂道を楽に登りたいから、後ろのギアを大きくしたい」というカスタムは非常に人気があります。しかし、ディレイラー(変速機)には「扱えるギアの範囲」が決まっており、それを無視すると破損の原因になります。
キャパシティという数値を理解する
リアディレイラーには「トータルキャパシティ」という数値が設定されています。これは、ディレイラーが吸収できるチェーンのたるみの量を示すものです。「(フロント最大歯数 - フロント最小歯数)+(リア最大歯数 - リア最小歯数)」という計算式で求められます。使いたいギアの組み合わせが、このキャパシティの範囲内に収まっている必要があります。もし範囲を超えると、特定のギアに入れたときにチェーンが突っ張って動かなくなったり、逆にダルダルになって外れたりします。
ケージの長さ(SSとGS)
上記のキャパシティに対応するため、リアディレイラーには「SS(ショートケージ)」と「GS(ロングケージ/ミディアムケージ)」といった種類の違いがあります。SSは軽量ですが、大きなスプロケット(30T以上など)には対応していないことが多いです。もし、リアに32Tや34Tといった軽いギアを入れたい場合は、リアディレイラーもGSタイプに交換する必要があるかを互換表で確認しましょう。「カセットを変えるだけ」では済まないケースがここにあります。
フロントディレイラーの取り付けタイプ
フロントディレイラーには、フレームへの取り付け方法が主に2種類あります。フレームに台座がついている「直付け(じかづけ)タイプ」と、フレームのパイプに金属バンドで巻き付ける「バンドタイプ」です。間違って購入すると取り付けができません。また、バンドタイプにはパイプの直径(34.9mm、31.8mmなど)によるサイズ違いもあります。自分のフレームがどのタイプなのか、購入前によく観察することが大切です。
クランクとチェーンラインの関係
クランクセットを交換する場合、「チェーンライン」にも気を配る必要があります。特にグラベル用のGRXクランクは、太いタイヤと干渉しないように、チェーンリングの位置が通常より外側に2.5mmずれています。そのため、GRXのクランクを使う場合は、フロントディレイラーもGRX用を使わないと、変速調整がうまくいきません。ロード用コンポとグラベル用コンポを混ぜる「ミックスコンポ」をする際には、このチェーンラインの整合性が重要になります。
互換表に載っていない「ミックスコンポ」の考え方

インターネットで検索すると、「互換表ではNGになっているけれど、実際にやってみたら動いた」という情報を見かけることがあります。また、サードパーティ製(シマノ以外)のパーツを混ぜて使うケースもあります。これらはどう考えるべきでしょうか。
メーカー推奨外の組み合わせのリスク
シマノの互換表で線がつながっていない組み合わせでも、物理的に装着できてしまい、とりあえず変速することもあります。しかし、それは「たまたま動いている」だけの状態であることが多いです。本来の性能であるスムーズな変速が失われていたり、チェーン落ちのリスクが高まっていたりします。最も怖いのは、急な坂道で力を入れた瞬間や、緊急ブレーキ時などの「極限状態」でトラブルが起きることです。安全を第一に考えるなら、推奨外の組み合わせは避けるのが賢明です。
サードパーティ製パーツとの相性
チェーンやスプロケットなどで、シマノ以外のメーカー品を使うこともあるでしょう。多くのメーカーは「シマノ互換」を謳っていますが、変速性能や耐久性はシマノ純正の組み合わせには及びません。特に最新の12速システムや、特殊な加工がされたチェーンリングなどは非常にシビアです。「変速が少し遅れる」「音が鳴る」といった不満が出る可能性があることを理解した上で、導入するかどうかを検討してください。
メモ:ショップへの依頼について
自転車ショップにパーツ交換を依頼する場合、互換表にない組み合わせ(メーカー保証外)の作業は断られることが一般的です。これは意地悪ではなく、お客様の安全と作業後の動作を保証できないためです。ショップに相談する際は、基本的に公式の互換性を守る前提で話を進めましょう。
どうしてもミックスしたい場合は
もし、どうしても特殊な組み合わせ(例:ロードバイクにMTBのような巨大なギアを付けたいなど)を実現したい場合は、プロショップの経験豊富なメカニックに相談するか、「Wolf Tooth」などのような、互換性の隙間を埋めるための特殊パーツを製造している専門メーカーの製品を検討することになります。ただし、これらは上級者向けのカスタムであり、調整やトラブル対応も自分で行う覚悟が必要です。
シマノ互換表を活用して安全なカスタムを楽しもう
自転車のパーツ交換は、愛車の性能を引き上げ、走りをより快適にしてくれる楽しいものです。しかし、そこには複雑な規格と互換性のルールが存在します。今回の記事で紹介したように、「速数が同じならOK」といった単純な思い込みは禁物です。特に最新の12速やCUESなどの新規格が登場している現在は、より一層の注意が必要です。
カスタムを計画する際は、まずはシマノ公式サイトの「互換性チャート」を開くことから始めましょう。そして、自分の持っているパーツと欲しいパーツが線でつながっているかを確認してください。このひと手間をかけるだけで、無駄な買い物を防ぎ、何より安全に自転車に乗り続けることができます。正しい知識と互換表を武器に、あなただけの理想の一台を作り上げてください。



