自転車のタイヤを選ぶとき、スペック表にある「TPI」という数値を見て、「これって何だろう?」と疑問に思ったことはありませんか?実はこの数値、タイヤの「乗り心地」や「速さ」を左右するとても重要な指標なのです。
TPIを知ることで、あなたの走りにぴったりのタイヤが見つかるようになります。この記事では、Thread Per Inch(TPI)の基本から、数値による性能の違い、そして自分に合ったタイヤの選び方まで、専門用語を交えつつわかりやすく解説します。
Thread Per Inch (TPI)の基本を知ろう

まずは、TPIという言葉の意味と、それが自転車のタイヤにおいてどのような役割を果たしているのか、基本的な仕組みから見ていきましょう。
TPIという言葉の意味
TPIとは「Threads Per Inch(スレッド・パー・インチ)」の略称です。直訳すると「1インチあたりの糸(スレッド)の本数」となります。1インチ(約2.54cm)四方の中に、タイヤの骨格となる繊維が何本並んでいるかを表す密度の単位です。
この数値は、衣類でいう「生地のきめ細やかさ」に似ています。たとえば、高級なシーツは細い糸で高密度に織られているため肌触りが滑らかですが、丈夫なキャンバス地は太い糸でざっくりと織られています。タイヤもこれと同じで、TPIの数値によって「しなやかさ」や「硬さ」が決まるのです。
タイヤのケーシングと繊維の関係
自転車のタイヤは、単なるゴムの塊ではありません。ゴムの内側には「ケーシング(カーカス)」と呼ばれる繊維の層があり、これがタイヤの形状を保つ「骨格」の役割を果たしています。人間で言えば、ケーシングは骨や筋肉、ゴム(トレッド)は皮膚のようなものです。
TPIはこのケーシングに使われる繊維の密度を指します。一般的に、この繊維にはナイロンやコットンなどが使われます。ケーシングがしっかりしているからこそ、高圧の空気を充填してもタイヤが破裂せず、ライダーの体重を支えることができるのです。
繊維の太さと密度の違い
TPIの数値は、使われている「繊維(糸)の太さ」と密接に関係しています。ここが理解のポイントです。
- 低いTPI(例:60 TPI): 太い糸を使用しているため、1インチに入る本数が少なくなります。
- 高いTPI(例:120 TPI): 非常に細い糸を使用しているため、1インチにたくさんの本数を詰め込めます。
つまり、TPIの数値を見るだけで、そのタイヤが「太い糸でガッチリ作られているか」それとも「極細の糸で繊細に作られているか」を判断することができるのです。この違いが、走りの軽さや耐久性に大きく影響します。
低TPIタイヤの特徴とメリット・デメリット

一般的に「60 TPI」以下とされるタイヤは、低TPI(ローTPI)のカテゴリーに入ります。クロスバイクやエントリーグレードのロードバイクに標準装備されていることが多いタイプです。その特徴を詳しく見ていきましょう。
太い繊維で頑丈な作り
低TPIのタイヤには、太くて丈夫な繊維が使われています。これはジーンズの生地のように厚手で頑丈であることを意味します。物理的に繊維が太いため、擦れや切り裂きに対して強く、タフな使い方ができるのが最大の特徴です。
特に、歩道の段差を乗り越えたり、砂利道を走ったりするようなシーンでは、この「太い繊維による剛性」が頼りになります。サイドウォール(タイヤの側面)もしっかりしているため、不意のトラブルでタイヤ側面が裂けるリスクも比較的低くなります。
ゴムの量が多く重量がある
太い繊維を使って網目を組むと、どうしても繊維と繊維の間に隙間ができます。タイヤを作る際、この隙間を埋めるために多くのゴムが必要になります。その結果、低TPIのタイヤは全体的にゴムの層が厚くなり、重量が重くなる傾向があります。
「重い」と聞くと悪いことのように思えますが、ゴムが肉厚であることは、異物が刺さった際のプロテクション効果も期待できるということです。ただし、漕ぎ出しの軽さや登坂性能という点では、高TPIタイヤに譲ることになります。
乗り心地は少し硬めになる
ケーシングの繊維が太く、ゴムの量も多いため、タイヤ全体が硬く仕上がります。これにより、路面の凹凸を拾いやすくなり、ゴツゴツとした振動がハンドルやサドルに伝わりやすくなることがあります。
しかし、この「硬さ」は「しっかり感」とも言い換えられます。荷物を多く積載する場合や、体重があるライダーにとっては、タイヤが変形しすぎず、安定した走りを支えてくれるというメリットにもなり得ます。
コストパフォーマンスに優れる
製造工程において、極細の繊維を高密度に織り込むよりも、太い繊維で織るほうがコストを抑えられます。そのため、低TPIのタイヤは比較的安価で手に入ります。
「消耗品だからコストを抑えたい」「毎日の通勤でガシガシ使いたい」というユーザーにとって、低TPIタイヤは経済的な味方です。安価であっても、現代のタイヤは十分な性能を持っているため、日常使用で不満を感じることは少ないでしょう。
高TPIタイヤの特徴とメリット・デメリット

次に、「120 TPI」以上、あるいは「320 TPI」といった高数値を持つタイヤについて解説します。これらは主にレース用やハイエンドモデルとして販売されています。
しなやかさが生むグリップ力
高TPIタイヤの最大の特徴は、シルクのように細い繊維が使われていることによる「しなやかさ(ケーシングの柔らかさ)」です。タイヤ自体が柔軟に変形するため、路面の微細な凹凸に対してピタッと吸い付くように追従します。
この「路面追従性」が高いと、タイヤが路面から離れる瞬間が減り、結果としてグリップ力が向上します。カーブを曲がるときやブレーキをかけたときに、地面をしっかりと掴む感覚を得られるのは、高TPIタイヤならではの特権です。
転がり抵抗の軽減とスピード
「タイヤが変形する」と聞くと、抵抗が増えるように感じるかもしれませんが、実は逆です。しなやかなケーシングは、変形してから元の形に戻るまでのエネルギーロス(ヒステリシスロス)が非常に少ないのです。
硬いタイヤは路面の突起にぶつかると跳ねてしまい、それが抵抗となってスピードを殺してしまいます。一方、高TPIタイヤは障害物をいなすように滑らかに転がるため、結果として「転がり抵抗」が低くなり、少ない力で速く走ることができます。
軽量化による走りの軽さ
極細の繊維を高密度に配置しているため、繊維間の隙間が非常に小さくなります。そのため、隙間を埋めるためのゴムの量が最小限で済み、タイヤ全体を薄く、軽く仕上げることができます。
タイヤの外周部が軽いということは、ホイールを回す際の慣性モーメントが小さくなることを意味します。信号待ちからのスタートや、登り坂での加速が驚くほどスムーズに感じられるでしょう。
乗り心地はどう変わる?TPIによる走行感の違い

スペック上の数値だけでなく、実際に自転車に乗ったときにTPIの違いをどう感じるのか、感覚的な部分を掘り下げてみましょう。
路面追従性と振動吸収性
高TPIのタイヤに変えた多くの人が最初に感じるのが、「乗り心地がマイルドになった」という感覚です。細かい振動(マイクロバイブレーション)をタイヤのケーシングが吸収してくれるため、長時間乗っていても疲れにくくなります。
まるで路面に薄い絨毯が敷かれているような、滑らかな走行感を味わえるのが高TPIの魅力です。一方、低TPIタイヤは路面の情報をダイレクトに伝えてくるため、スポーティーな硬さを好む場合や、路面状況を掌で感じ取りたい場合には適していることもあります。
コーナリング時の安定感
峠道の下りやコーナーにおいて、TPIの違いは安心感に直結します。高TPIタイヤは、車体を傾けた際にもタイヤが柔軟に変形し、接地面積を広く保とうとします。
これにより、「滑るかもしれない」という不安感が減り、思った通りのラインをトレースしやすくなります。低TPIタイヤの場合、限界付近で唐突にグリップを失うことがあるため、コーナリング性能を重視するならTPIの数値にはこだわりたいところです。
空気圧設定との兼ね合い
面白いことに、TPIによって適正な空気圧の感じ方も変わります。高TPIタイヤはしなやかさがあるため、あえて少し空気圧を高めに設定しても不快な振動が出にくい傾向があります。
逆に、低TPIタイヤはもともと剛性が高いため、空気圧を上げすぎると跳ねてしまい、下げすぎると腰砕け感が出やすいという特徴があります。タイヤのTPIに合わせて空気圧を微調整することで、そのタイヤのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。
自分に合ったTPIの選び方ガイド

「高いTPIが良いタイヤ」とは限りません。重要なのは、あなたの用途や予算にマッチしているかどうかです。シーン別のおすすめ選び方をご紹介します。
通勤・通学などの街乗り派
毎日使う自転車なら、最優先すべきは「耐久性」と「パンクのしにくさ」です。ここでは60 TPI前後のタイヤがベストチョイスです。
推奨:30〜60 TPI
サイドウォールが厚く、歩道の段差や荒れたアスファルトでも気兼ねなく走れます。コストも安いため、すり減ったらすぐに交換できる気軽さも魅力です。
ロングライドやツーリング派
週末に50km〜100km程度を走るなら、快適性と耐久性のバランスが重要になります。60〜120 TPI程度の中間的なグレードがおすすめです。
純正の重いタイヤから、少し良いタイヤ(例えば60 TPIでも質の良いもの、あるいは120 TPIのエントリーモデル)に変えるだけで、1日の疲労度が大きく変わります。「耐久性は欲しいけれど、走りも軽くしたい」という欲張りなニーズに応えてくれます。
レースやイベント志向派
ヒルクライムレースやロードレースに出るなら、迷わず120 TPI以上のハイエンドモデルを選びましょう。
グラベルやオフロードの場合
未舗装路を走るグラベルロードやMTBの場合、選び方が少し複雑です。高TPIでしなやかなタイヤはグリップが良い反面、鋭利な岩などでサイドカットするリスクがあります。
そのため、オフロードでは「高TPIだが、サイドに補強が入っているモデル」や、あえて「60 TPIで頑丈さを優先したモデル」を選ぶライダーも多くいます。走る路面の荒れ具合によって使い分けるのが上級者のテクニックです。
意外と知らない?TPIに関する注意点と豆知識

最後に、カタログを見る際に惑わされがちなポイントや、よくある誤解について解説します。これを知っておけば、タイヤ選びで失敗することがなくなります。
表記トリック?3層構造の計算方法
タイヤメーカーによっては、TPIの表記方法が異なる場合があります。特に有名なのがドイツの「Continental(コンチネンタル)」などの表記です。
例えば、スペック表に「3/180 TPI」と書かれていることがあります。これは「60 TPIのシートを3枚重ねている」という意味です。合計で180ですが、素性としては60 TPIの太い糸を使っているため、乗り味は「180 TPIのしなやかさ」よりも「60 TPIの剛性感」に近くなります。
ポイント:
「180 TPI」と書いてあっても、それが「1層(シングルプライ)で180なのか」、「3層(3プライ)合計で180なのか」を確認しましょう。一般的に「3/180」は耐久性重視、「120(1層)」はしなやかさ重視と判断できます。
耐パンク性能はTPIだけで決まらない
「高TPI=糸が細い=パンクしやすい」と単純に考えがちですが、最近のハイエンドタイヤはそうとも限りません。トレッドの下に「耐パンクベルト(ベクトランやケブラーなど)」という非常に強い素材を挟み込んでいるため、接地面からの貫通パンクには非常に強くなっています。
ただし、サイドウォール(側面)に関しては、高TPIタイヤは薄くなりがちです。サイドカットのリスクは、やはり低TPIの肉厚タイヤの方が低いと言えるでしょう。
TPIが高いほど寿命が短いとは限らない
タイヤの寿命(摩耗)を決めるのは、主にTPIではなく「コンパウンド(ゴムの質)」です。レース用タイヤはグリップ力を高めるために柔らかいゴムを使っていることが多く、そのせいで「減りが早い」と感じられます。
逆に言えば、高TPIのケーシングに耐久性のあるゴムを組み合わせたタイヤであれば、しなやかな乗り心地を維持しつつ長持ちさせることも可能です。TPIはあくまで「骨格の密度」であり、タイヤの性格のすべてを決めるわけではないことを覚えておきましょう。
まとめ:Thread Per Inch (TPI)を理解して理想のタイヤを見つけよう
Thread Per Inch(TPI)は、自転車タイヤの性格を決定づける重要な数値です。最後に要点を振り返りましょう。
- TPIとは: ケーシング(骨格)の繊維密度のこと。数値が高いほど繊維が細く、低いほど太い。
- 低TPI(〜60): 頑丈で安価、サイドカットに強い。毎日の通勤や練習に最適。
- 高TPI(120〜): 軽量でしなやか、転がり抵抗が低い。レースや快適なロングライド向け。
- 選び方のコツ: 「速さと快適さ」を求めるなら高TPI、「耐久性とコスト」を求めるなら低TPI。
タイヤは自転車の中で唯一地面と接しているパーツです。フレームやホイールを買い替えるのは大変ですが、タイヤなら数千円からアップグレードができ、その違いを一番体感しやすいパーツでもあります。ぜひTPIの数値をチェックして、あなたのライディングスタイルに最適な一本を見つけてください。



