自転車を趣味にする人にとって、ひとつの大きな目標となるのが「100km」という距離です。「センチュリーライド」とも呼ばれ、多くのサイクリストが憧れるマイルストーンですが、車なら1時間半〜2時間で着くこの距離も、自転車となると未知の世界に感じるかもしれません。
「今の自分の体力で走り切れるだろうか」「朝出て夕方までには帰ってこられるのかな」と不安になる方も多いでしょう。しかし、しっかりとした準備とペース配分さえできれば、初心者の方でも達成可能な距離です。
この記事では、自転車で100kmを走るために必要な時間や体力、そして完走するための装備やコツについて、わかりやすく解説していきます。次の週末、新しい景色を見るための冒険に出かける準備を始めましょう。
自転車で100km走るとどのくらいの時間がかかるのか

これから100kmに挑戦しようとする方が最も気になるのは、やはり「所要時間」ではないでしょうか。計画を立てる上でも、何時に出発して何時に帰宅できるのかを知っておくことは非常に重要です。自転車の種類や信号の多さによって時間は大きく変わりますが、まずは一般的な目安を見ていきましょう。
ロードバイク・クロスバイクの平均的な所要時間
ロードバイクやクロスバイクといったスポーツ自転車の場合、初心者が無理なく維持できる平均速度は時速20km前後と言われています。単純計算では、100kmを時速20kmで割ると「5時間」となります。これが、ペダルを漕いでいる実質の走行時間です。
少し乗り慣れている人であれば、時速25km程度で巡航できることもあり、その場合は4時間ほどで走り切れる計算になります。しかし、これはあくまで「信号も坂道もなく、一度も止まらずに走り続けた場合」の理論値に過ぎません。実際の道路状況では、必ずストップ&ゴーが発生するため、この時間通りにはいかないことを理解しておきましょう。
信号待ちや休憩を含めたリアルなタイム
実際に公道を走る場合、信号待ちは避けて通れません。さらに、100kmという長丁場では、トイレ休憩、食事休憩、そして疲労回復のための小休憩が絶対に必要です。これらを考慮すると、走行時間プラス2〜3時間を見ておく必要があります。
具体的には、初心者の場合、トータルの所要時間は「7時間〜9時間」程度を見込んでおくのが現実的です。例えば、朝8時に出発した場合、順調にいけば15時から17時の間に帰宅できるイメージです。トラブルが起きたり、風が強かったりするとさらに時間がかかることもあるため、時間には十分な余裕を持つことが大切です。
ママチャリでは現実的ではない理由
いわゆる「ママチャリ(シティサイクル)」で100kmを走ることは可能でしょうか。結論から言えば、不可能ではありませんが、極めて過酷な挑戦になります。ママチャリは車体が重く、タイヤの摩擦抵抗も大きいため、平均時速は10km〜15km程度まで落ち込みます。
単純に走行時間だけでも7〜10時間かかり、休憩を含めると12時間以上かかるケースも珍しくありません。また、スポーツ自転車に比べて乗車姿勢が固定されやすく、お尻や腰への負担が甚大です。初めての100km挑戦であれば、ロードバイクやクロスバイクの使用を強くおすすめします。
時間配分のコツ:早朝出発が絶対おすすめ
100kmを走り切るための最大のコツは「早朝に出発すること」です。特に初心者のうちは、後半になるにつれて疲労でペースが落ちてきます。もし昼前に出発してしまうと、帰宅する頃には日が暮れてしまい、視界が悪く危険な夜道を走ることになりかねません。
夏場であれば朝6時〜7時、冬場でも日が昇ったらすぐに出発するのが理想的です。午前中に距離の半分(50km)を消化し、お昼ご飯をゆっくり食べて、午後は残りの距離をのんびり走るというスケジュールであれば、精神的にも余裕を持って楽しむことができます。
100kmロングライドを快適にする装備と持ち物

長い時間を自転車の上で過ごすロングライドでは、装備の有無が快適さを大きく左右します。「あったら便利」ではなく「ないと困る」アイテムを中心に準備を整えましょう。ここでは、初心者の方が見落としがちな必須アイテムを紹介します。
お尻の痛みを守る「サイクルパンツ」は必須
100kmライドにおいて、体力以上に問題となるのが「お尻の痛み」です。スポーツ自転車のサドルは硬く作られているため、数時間座り続けると激痛で座っていられなくなることがあります。これを防ぐのが、お尻の部分にクッションパッドが入った「サイクルパンツ(レーサーパンツ)」です。
「本格的なピチピチのウェアは恥ずかしい」という方は、普段のズボンの下に履けるインナーパンツタイプも販売されています。これがあるだけで、後半の苦しみが劇的に軽減されます。サドルカバーを付ける方法もありますが、ペダリングの邪魔になることがあるため、ウェア側での対策がおすすめです。
パンク修理キットと携帯工具の準備
長距離を走れば、それだけパンクのリスクも高まります。人里離れた場所でパンクしてしまい、近くに自転車屋さんもないという状況は十分にあり得ます。そのため、自分でパンク修理(チューブ交換)ができる道具を持参することは、ロングライドのマナーとも言えます。
【最低限持っておきたい工具リスト】
・予備のチューブ(1〜2本)
・タイヤレバー(タイヤを外す道具)
・携帯用空気入れ(またはCO2ボンベ)
・携帯マルチツール(六角レンチなど)
これらの道具を持っていても、使い方がわからなければ意味がありません。出発前に動画などで手順を確認し、一度自宅で練習してから本番に臨むと安心です。
水分補給と補給食の携帯ルール
自転車は風を受けて走るため、汗がすぐに乾き、自分がどれだけ汗をかいているか気づきにくいスポーツです。喉が渇いたと感じたときには、すでに脱水症状が始まっていると言われています。季節を問わず、ボトル1〜2本の水分は必ず携帯し、15分〜20分おきに一口飲むようにしましょう。
また、エネルギー補給も重要です。スポーツようかん、エナジージェル、おにぎりなど、手軽に食べられる補給食をポケットやバッグに入れておきましょう。コンビニエンスストアが見つからない区間に備え、常に何かしらの食料を持っておくことが大切です。
体温調節のためのウィンドブレーカー
出発時は暖かくても、峠の下り坂や夕方の冷え込み、急な天候の変化などで体感温度が急激に下がることがあります。体が冷えると筋肉が固まり、パフォーマンスが低下するだけでなく、体調を崩す原因にもなります。
そこで役立つのが、薄手で軽量なウィンドブレーカーです。使わないときは手のひらサイズに畳んでポケットに収納できるタイプが便利です。夏場であっても、紫外線対策や虫除けとして役立つため、一枚持っておいて損はありません。
スマホの充電切れを防ぐモバイルバッテリー
現代のサイクリングにおいて、スマートフォンは地図アプリや緊急連絡用として欠かせないライフラインです。GPSアプリを起動したまま走ると、バッテリーの消耗は想像以上に早くなります。
見知らぬ土地で地図が見られなくなることほど心細いことはありません。モバイルバッテリーと充電ケーブルは必ず携行しましょう。ハンドル周りにスマホホルダーを取り付ける場合は、走行時の振動でスマホが落下しないよう、信頼性の高いメーカーのものを選ぶことも重要です。
100km完走に必要な体力と消費カロリー

「自分に100km走り切る体力があるのだろうか」という不安は誰もが抱くものです。しかし、自転車はランニングなどに比べて身体への衝撃が少なく、長時間続けやすい運動です。ここでは、身体にかかる負荷やエネルギー消費について解説します。
消費カロリーはフルマラソン並み?
自転車で100kmを走った場合の消費カロリーは、体重や速度、風向きによって大きく異なりますが、一般的には2000kcal〜3000kcal程度と言われています。これは成人男性の1日分の摂取カロリーを上回る量であり、フルマラソンを走った時の消費カロリーに近い数値です。
これだけのエネルギーを消費するため、ダイエット効果は抜群です。しかし、一度にこれだけのエネルギーを体内に蓄えておくことはできません。そのため、走りながら消費した分を補充していく必要があります。
「ハンガーノック」という最大の敵
ロングライドで最も恐ろしいのが「ハンガーノック」と呼ばれる現象です。これは、体内の糖質エネルギー(グリコーゲン)が枯渇し、車で言う「ガス欠」の状態になることです。ハンガーノックになると、急に力が入らなくなり、頭がボーッとしたり、手足が震えたりして、ペダルを漕ぐことができなくなります。
恐ろしいのは、予兆なく突然動けなくなることです。「お腹が空いた」と感じてからでは遅いと言われています。そうなる前に、計画的にカロリーを摂取し続けることが、完走への近道です。
こまめな補給が成功の鍵
ハンガーノックを防ぐための鉄則は「お腹が空く前に食べる」ことです。目安としては、1時間に1回、おにぎり1個やパン1個程度の固形物を摂取し、その合間にジェルなどで糖分を補給します。
メモ: カロリーゼロのドリンクや食品は、エネルギー補給の観点からは意味がありません。ロングライド中は、しっかりとカロリー(糖質)が含まれているものを選んでください。
コンビニ休憩のたびに何かを口にするくらいの感覚でちょうど良いでしょう。「食べて走る」ことも、ロングライドに必要な技術のひとつです。
翌日に疲れを残さないためのストレッチ
100kmを走り切った後は、達成感とともに心地よい疲労感に包まれますが、ケアを怠ると翌日に激しい筋肉痛に襲われることになります。特に太もも、ふくらはぎ、お尻、そしてハンドルを支え続けた首や肩の筋肉を入念にストレッチしましょう。
帰宅後はぬるめのお風呂にゆっくり浸かり、血行を良くして疲労物質の排出を促します。また、運動直後にタンパク質を摂取することで、筋肉の修復を早めることができます。リカバリーまで含めてがロングライドだと考えましょう。
初心者が失敗しないためのルート選び

100km完走の難易度は、実は「ルート選び」で8割決まると言っても過言ではありません。同じ100kmでも、平坦な道と山道では雲泥の差があります。初心者が楽しく走り切るためのコース設定のポイントをお伝えします。
「獲得標高」をチェックして坂道を避ける
ルートを作成する際、距離だけでなく「獲得標高」という数値を必ずチェックしてください。これは、コース上の上り坂の高さを合計した数値です。初心者の場合、100kmに対して獲得標高が500m以下であれば「ほぼ平坦」、1000mを超えると「山岳コース」という認識で良いでしょう。
初めての100km挑戦で、坂道の多いルートを選ぶと、足が売り切れてしまい完走が困難になります。まずは大きな川沿いのサイクリングロードや、海岸線沿いの道など、できるだけアップダウンの少ないルートを選ぶのが成功の秘訣です。
輪行(りんこう)というエスケープ手段を知る
「もし途中で走れなくなったらどうしよう」という不安を解消してくれるのが「輪行(りんこう)」です。これは、自転車を専用の袋(輪行袋)に入れて、電車などの公共交通機関で移動する方法です。
最初から「帰りは電車で帰ってこよう」と決めて、片道50kmの地点まで走って電車で戻るプランも立派な100kmライド(往復換算)の練習になります。また、駅の近くを通るルートを設定しておけば、メカトラブルや体調不良が起きた際にいつでも電車で帰れるという安心感が生まれます。
コンビニの場所を事前に把握しておく
市街地を走る場合は問題ありませんが、山間部や田舎道を走る場合、数十キロにわたってコンビニも自販機もない区間が存在することがあります。トイレに行きたい時や水がなくなった時に店がないと、精神的にも追い詰められます。
Googleマップなどを活用し、ルート上に定期的に休憩できるポイントがあるかを確認しておきましょう。特に、コースの後半には疲れが溜まってくるため、休憩ポイントを多めに設定しておくと安心です。
風向きを味方につけるコース設定
自転車にとって、坂道と同じくらい大敵なのが「向かい風」です。強風の日の向かい風は、平地であっても坂道を登っているような負荷がかかります。天気予報アプリなどで当日の風向きを確認し、できるだけ「帰りが追い風」になるようにルートを組むと楽になります。
一般的に、行きは体力があるので多少の向かい風でも頑張れますが、疲れている帰路で向かい風を受けると心が折れそうになります。季節風の傾向などを考慮し、賢く風を味方につけましょう。
いきなり100kmは無謀?段階的な練習ステップ

スポーツ自転車を買ったばかりで、いきなりぶっつけ本番で100kmに挑むのは、膝や腰を痛める原因になりかねず、あまりおすすめできません。自信を持って当日を迎えるために、段階を踏んで距離を伸ばしていきましょう。
まずは片道15km(往復30km)からスタート
最初は往復30km程度の距離から始めてみましょう。片道15kmというと、隣の街や少し大きめの公園まで行って帰ってくるくらいの距離感です。所要時間は2時間程度ですので、午前中の軽い運動として最適です。
この距離を走ることで、自転車の変速操作やブレーキの感覚、サドルの高さが合っているかなどを確認できます。また、お尻が痛くなり始めるタイミングなども掴めるはずです。
50kmの壁を越えれば100kmは見えてくる
30kmに慣れてきたら、次は50km〜60kmに挑戦します。50kmは100kmのちょうど半分。この距離を走った時の疲労感で、100kmの辛さをある程度予測できます。「50km走ってもまだ余裕がある」「楽しかった」と思えれば、100km完走の基礎体力は十分についています。
逆に50kmでヘトヘトになってしまった場合は、ペースが速すぎるか、補給が足りていない可能性があります。走り方を見直す良い機会になるでしょう。
自分の巡航速度を把握する
練習ライドの中で、自分が「無理なく会話ができる程度の強度」で走ると、時速何キロくらい出るのかを確認してください。これがあなたの「巡航速度」です。この速度を基準に当日のスケジュールを組むことで、無理のない計画が立てられます。
また、信号待ちからの発進や、ちょっとした坂道でのギアチェンジなど、スムーズな操作を身につけることも、無駄な体力消耗を防ぐためには重要です。少しずつ距離を伸ばしながら、愛車との一体感を高めていきましょう。
まとめ:100kmは自転車でどのくらいの挑戦か
自転車での100km走行は、初心者にとって決して低いハードルではありませんが、適切な準備と計画があれば十分に達成可能な目標です。時間にして約7〜9時間、消費カロリーは2000kcal以上という、一日がかりの大冒険となります。
100kmを走り切った瞬間の達成感は、日常では味わえない特別なものです。自分の足だけで遠く離れた場所まで到達できたという事実は、大きな自信につながります。まずは無理のない計画を立てて、安全第一でロングライドへの第一歩を踏み出してください。


