自転車のパーツ選びで、最も複雑で頭を悩ませるのが「ボトムブラケット(BB)」ではないでしょうか。フレームとクランクをつなぐ重要な部品ですが、種類があまりにも多く、自分の自転車にどの規格が合うのか判断するのは簡単ではありません。
この記事では、難解に感じられがちなボトムブラケット規格について、初心者の方でも直感的に理解できるよう丁寧に解説します。ネジ切りの種類から最新の圧入式まで、ポイントを絞って紹介していくので、メンテナンスやカスタムの参考にしてください。
ボトムブラケットは、外からは見えにくいパーツですが、走行性能や耐久性に直結する「自転車の心臓部」のひとつです。正しい知識を身につけることで、異音トラブルを防ぎ、より軽快なペダリングを手に入れることができるようになります。
ボトムブラケット規格の基本と役割をまずは知っておこう

ボトムブラケットは、自転車のフレーム底部にある「BBシェル」と呼ばれる円筒状の部分に取り付けるパーツです。クランク軸を支え、スムーズに回転させるためのベアリングが内蔵されています。
自転車の走行性能を支えるBBの重要な役割
ボトムブラケット(BB)の最大の役割は、ペダルを漕ぐ力を効率よく車輪に伝えることです。ライダーが踏み込んだ力はクランクに伝わり、BB内のベアリングを介して回転運動へと変換されます。
もしBBの精度が低かったり、規格が合っていなかったりすると、回転が重くなったり「パキパキ」という異音が発生したりします。また、フレームの剛性を高めるために、近年ではBB周りの設計を大きくする規格が増えています。
目立たないパーツではありますが、BBの品質や規格の選択は、走りの軽さや快適性にダイレクトに影響します。そのため、自分のバイクがどの規格を採用しているかを知ることは、自転車ライフを楽しむための第一歩といえるでしょう。
規格が多すぎて複雑に見える理由
なぜこれほどまでに規格が増えてしまったのでしょうか。それは、自転車メーカー各社が「より軽く、より硬く、より安く」という理想を追求して、独自の基準を次々と発表してきた歴史があるからです。
かつては世界共通のシンプルなネジ切り式が主流でしたが、カーボンフレームの普及とともに、金属の受け手を必要としない「圧入式」が登場しました。その後、圧入式の弱点を克服するためにさらに新しい規格が生まれ、現在に至っています。
ユーザーにとっては混乱の元ですが、それぞれの規格には誕生した背景やメリットがあります。主要なものを整理していけば、決して理解できないものではありませんので、安心してください。
自分の自転車の規格を特定するための3つのポイント
自分の自転車に合うBBを見つけるためには、まず3つのポイントを確認する必要があります。1つ目は「フレームのBBシェルの内径」、2つ目は「BBシェルの幅(シェル幅)」、そして3つ目が「クランク軸の太さ」です。
例えば、ロードバイクで一般的なJIS規格ならシェル幅は68mmですが、マウンテンバイクでは73mmが主流です。また、クランク軸もシマノの24mmや、大径の30mmなど、メーカーによって異なります。
これらの組み合わせによって、使用できるBBが決まります。一見すると複雑ですが、この「シェル幅」「内径」「軸径」の3要素さえ押さえておけば、適合するパーツを正しく選ぶことができるようになります。
伝統的でメンテナンス性に優れた「ねじ切り式(スレッド式)」

ねじ切り式は、フレームのBBシェル内部にネジ山が切ってあり、そこにBB本体をねじ込んで固定するタイプです。古くからある方式ですが、信頼性の高さから現在でも多くのバイクに採用されています。
世界標準といえる「JIS(BSA)」規格の特徴
日本で販売されている自転車の多くに採用されているのが、JIS規格(BSA規格とも呼ばれます)です。シェル幅はロードバイクで68mm、マウンテンバイクで73mmとなっているのが一般的です。
この規格の最大の特徴は、右側のカップが「逆ネジ」になっている点です。ペダルを漕ぐ方向に回すと締まるよう設計されており、走行中に振動で緩んでしまうのを防ぐ工夫がなされています。
世界中で普及しているため、交換用のパーツが手に入りやすく、専用工具も安価で販売されています。セルフメンテナンスに挑戦したい方にとっても、最も扱いやすい規格といえるでしょう。
ヨーロッパ車に多い「イタリアン」規格
イタリアの老舗ブランド(コルナゴやピナレロなど)の一部で伝統的に使われているのが、イタリアン規格です。JIS規格との大きな違いは、シェル幅が70mmであることと、左右どちらも「正ネジ」であることです。
ネジの直径もJISよりわずかに大きいため、JIS用のBBをイタリアンのフレームに取り付けることはできません。右側も正ネジなので、走行中に少しずつ緩んでくる可能性がある点には注意が必要です。
最近ではイタリアのメーカーでもJIS規格を採用するケースが増えていますが、憧れのイタリアンブランドの中古フレームなどを手に入れた際は、必ずこの規格を確認するようにしましょう。
ねじ切り式が再評価されている理由
一時期は軽量化のために圧入式へと流行が移りましたが、最近では再びねじ切り式を採用する高級フレームが増えています。その理由は、圧倒的な「音鳴りの少なさ」と「メンテナンスのしやすさ」にあります。
圧入式は、フレームの精度がわずかでも狂っていると異音が出やすいという弱点がありました。一方、ねじ切り式はしっかりと固定できるため、不快な音が発生しにくく、着脱によるフレームへのダメージもほとんどありません。
軽量化と剛性を追求した「圧入式(プレスフィット)」

圧入式は、ネジを切っていない滑らかなシェル内部に、ベアリングを直接またはプラスチック製のカップに入れて「押し込む」タイプです。カーボンフレームの成形と相性が良く、競技用バイクで広く普及しました。
キャノンデールが提唱した「BB30」の衝撃
圧入式の先駆けとなったのが、キャノンデールが開発した「BB30」規格です。その名の通り、クランクの軸径を30mmと太くすることで、軽量化と圧倒的な剛性を両立させました。
フレームのシェル内に直接ベアリングを圧入するため、部品点数が少なく、非常に軽く仕上がります。しかし、金属ベアリングを直接フレームに当てる構造上、精度の管理が難しく、異音が発生しやすいという課題もありました。
現在ではこのBB30を改良した規格も多く登場していますが、大径クランクによる加速の鋭さは、今でも多くのレーサーから支持されているポイントです。
シマノが推進する「BB86」と「BB92」
世界最大のパーツメーカーであるシマノが採用しているのが、BB86(ロード用)やBB92(MTB用)といった規格です。これらは「プレスフィットBB」とも呼ばれ、ベアリングが樹脂製のカップに収められています。
樹脂製のカップが緩衝材の役割を果たすため、BB30に比べて異音が出にくいのが大きなメリットです。また、シェル幅を広く設計できるため、フレーム全体の剛性を高めやすいという設計上の利点もあります。
シマノ製のクランクを使用することを前提に設計されているため、信頼性が非常に高く、多くの完成車メーカーがこの規格を標準採用しています。非常にバランスの取れた圧入規格といえるでしょう。
異音対策として進化した「PF30」
BB30の「音鳴りがしやすい」という弱点を克服するために生まれたのが、「PF30(プレスフィット30)」です。BB30と同じく30mm軸のクランクを使用しますが、ベアリングを樹脂カップに入れてから圧入します。
これにより、フレーム側の多少の精度誤差を樹脂が吸収してくれるようになり、音鳴りのトラブルが劇的に減少しました。BB30のパワー伝達性能を維持しつつ、扱いやすさを向上させた規格です。
現在、30mm軸のクランクを使用するフレームでは、このPF30が主流のひとつとなっています。互換性のあるアダプターも豊富で、シマノのクランクを流用することも比較的容易です。
次世代のスタンダード?注目を集める最新のボトムブラケット規格

技術の進歩とともに、従来の規格の欠点を解消した新しい規格が登場しています。特に最近のトレンドは、圧入式の太さとねじ切り式の安定感を「いいとこ取り」したものです。
理想の規格と呼ばれる「T47」のメリット
今、最も注目されているのが「T47」という規格です。これは、PF30のような大きなシェル内径を持ちながら、そこにネジを切り込んだものです。いわば「巨大なねじ切り式BB」です。
太いクランク軸を使えるため剛性が高く、ネジで固定するため異音がほとんど発生しません。さらに、メンテナンスも専用工具で簡単に行えるため、多くのハンドメイドバイクや大手メーカーが採用し始めています。
「圧入式の音鳴りに悩まされたくないけれど、走行性能も妥協したくない」というサイクリストにとって、まさに理想的な解決策といえる規格です。今後の普及が非常に期待されています。
SRAMが提案する独自規格「DUB(ダブ)」
大手パーツメーカーのSRAMが導入したのが「DUB」規格です。これは厳密にはフレームの規格ではなく、クランクとBBの接合部分の規格なのですが、非常に画期的な仕組みを持っています。
DUBの軸径は「28.99mm」という絶妙な太さに設定されています。これにより、ほぼすべてのフレーム規格に対して、耐久性を損なうことなく最適なベアリングサイズを組み合わせることが可能になりました。
「どんなフレームでも、これ一つで解決できる」という汎用性の高さが売りで、SRAMの現行コンポーネントを選ぶ際には避けては通れない、非常に合理的な規格となっています。
メーカー独自の進化を遂げた特殊規格
他にも、特定のメーカーが独自の理論で展開している規格があります。例えば、スペシャライズドが採用していた「OSBB」や、キャノンデールの左右非対称規格「BB30A」「PF30A」などが代表的です。
これらは特定のフレームの性能を最大限に引き出すために設計されていますが、汎用パーツがそのまま使えないケースもあるため注意が必要です。専用のアダプターが必要になることも少なくありません。
自分の愛車がこうした独自規格を採用している場合は、ショップのスタッフに相談するか、メーカー公式サイトのスペック表を細かく確認することをおすすめします。
失敗しないためのボトムブラケット選びと実践ステップ

実際にBBを交換したり、新しくパーツを購入したりする際には、どのような手順で確認を進めればよいのでしょうか。失敗を防ぐための具体的なステップを見ていきましょう。
まずはフレームのスペック表と実測を確認
最も確実なのは、フレームの製品マニュアルやメーカーサイトを確認することです。スペック表には必ず「BB規格」や「シェル幅」が記載されています。中古車などで詳細が不明な場合は、ノギスを使って計測しましょう。
シェル幅が68mmか70mmか、あるいは86mm以上あるかを測るだけでも、候補を大きく絞り込めます。また、ネジ山が見えるかどうか、あるいはベアリングが中に埋まっているかどうかを目視で確認することも重要です。
最近のバイクであれば、BBのカップ自体に規格名(BB-R60やPF30など)が印字されていることも多いので、作業前にスマートフォンなどで写真を撮って拡大してみるのも良い方法です。
取り付けたいクランクの「軸径」を特定する
次に、使用したいクランクの規格を確認します。ここを間違えると、どんなに高級なBBを買っても取り付けができません。主な軸径は以下の通りに分類されます。
●シマノ:24mm(ホローテックII)
●SRAM:28.99mm(DUB)または 24/22mm(GXP)
●多くの社外品:30mm(BB30、386EVOなど)
フレームの規格とクランクの軸径、この2つのパズルを組み合わせるパーツがBBです。例えば「BB86のフレームに30mm軸のクランクをつけたい」といった要望がある場合、特殊な薄型ベアリングを採用したコンバージョンBBが必要になります。
異音対策や性能アップを狙うなら「コンバージョンBB」
圧入式のフレームで異音に悩んでいる方や、より高い回転性能を求める方には、「コンバージョンBB」という選択肢があります。これは、左右のカップを内部で連結して固定するタイプのBBです。
左右がネジでつながることで、フレーム内での歪みを抑え、圧入式でありながらねじ切り式に近い安定感を得ることができます。ウィッシュボーンやスギノといったメーカーから高品質なモデルが発売されています。
価格は少し高価になりますが、メンテナンスの頻度を減らし、かつスムーズな回転を手に入れられるため、非常に人気のあるカスタムパーツとなっています。一度導入すれば、その効果をしっかり体感できるはずです。
BBの交換には、多くの場合「専用工具」が必要です。規格ごとに必要な工具が異なるため、自分で作業を行う場合は、BB本体だけでなく工具の予算も忘れずに確保しておきましょう。
ボトムブラケット規格を正しく理解して自分に最適な選択をしよう
ここまで、複雑なボトムブラケット規格について、その種類や特徴、選び方のポイントを解説してきました。一見すると難解な用語が並びますが、基本を押さえれば自分に必要なパーツが見えてきます。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
| 種類 | 主な規格名 | 特徴とメリット |
|---|---|---|
| ねじ切り式 | JIS(BSA)、ITA | 異音が少なく、メンテナンスが容易。信頼性抜群。 |
| 圧入式 | BB30、PF30 | 軽量で高剛性。30mm軸クランクに対応。 |
| シマノ圧入 | BB86、BB92 | 樹脂カップで音鳴りを抑制。多くの完成車に採用。 |
| 最新規格 | T47、DUB | 高剛性と安定性を両立。次世代のスタンダード。 |
ボトムブラケットは、一度取り付けてしまうと目立たない存在ですが、あなたのペダリングを常に支え続ける「縁の下の力持ち」です。自分のバイクの規格を正しく理解し、最適なBBを選ぶことは、自転車の寿命を延ばし、走りの質を一段上のステージへと引き上げてくれます。
もし自分で判断するのが不安なときは、計測した数値を持ってプロショップに相談してみてください。正しい規格の選択こそが、トラブルのない快適な自転車ライフへの近道となります。この記事が、あなたの愛車をより深く知るきっかけになれば幸いです。


