「ロードバイクに乗るならビンディングペダルは必須」
そんな言葉を信じて導入してみたものの、立ちゴケの恐怖や膝の痛み、歩きにくさに疲れてしまったという方は意外と多いのではないでしょうか。実は、ベテランのサイクリストの中にも、あえて「ビンディングペダルをやめた」という選択をする人が増えています。
この記事では、ビンディングペダルをやめた人たちが感じていた悩みや、フラットペダルに戻すことで得られるメリット、そしてフラットペダルでも快適に走るためのコツについて詳しく解説します。無理をして使い続ける必要はありません。もっと自由に、気楽に自転車を楽しむためのヒントをお伝えします。
なぜ多くの人が「ビンディングペダルをやめた」のか?

ロードバイクやクロスバイクに乗り慣れてくると、多くの人が一度はビンディングペダル(シューズとペダルを固定する仕組み)に挑戦します。しかし、しばらく使った後に「やっぱり自分には合わない」と判断し、フラットペダルに戻すケースも少なくありません。まずは、多くの人がビンディングペダルをやめるに至った主な理由と、抱えていた悩みについて見ていきましょう。
信号待ちや一時停止での「立ちゴケ」の恐怖とストレス
ビンディングペダルをやめる最大の理由として挙げられるのが、「立ちゴケ」に対する恐怖心です。ペダルと足が固定されているため、停車時にとっさに足を外せず、そのまま倒れてしまうのが立ちゴケです。特に初心者のうちは、信号待ちや急な飛び出しへの対応でパニックになりやすく、転倒のリスクが常につきまといます。
一度でも痛い思いや恥ずかしい思いをすると、その記憶がトラウマとなり、走っていても常に緊張を強いられるようになります。「次は上手く外せるだろうか」「あそこで止まりたくないな」と考えながら走るのは、精神的に大きなストレスです。この恐怖心から解放されたい一心で、フラットペダルに戻す人は非常に多いのです。
膝の痛みや身体への負担を感じたとき
ビンディングペダルは、足の位置(ポジション)が一点に固定されます。これは効率よく力を伝えるためには有効ですが、もしクリート(靴裏の金具)の位置調整が自分の身体に合っていないと、膝や足首に無理な力がかかり続けることになります。その結果、ライド後に膝が痛くなる「膝痛」に悩まされるケースがあります。
人間の身体は日によってコンディションが変わり、柔軟性も異なります。フラットペダルであれば無意識に踏みやすい位置に足をずらして調整できますが、ビンディングではそれができません。ミリ単位の調整を繰り返しても痛みが解消されず、身体への負担を減らすために、足を自由に動かせるフラットペダルを選ぶ人もいます。
「歩けない」不便さがサイクリングの楽しみを制限していた
ビンディングシューズ、特にロードバイク用の「SPD-SL」などのタイプは、ソールが非常に硬く、歩行することを前提に作られていません。そのため、自転車から降りるとペンギンのような歩き方になり、コンビニの中を歩くのさえ苦労することがあります。これでは、せっかく景色の良い場所にたどり着いても、周辺を散策したり観光したりすることが億劫になってしまいます。
「美味しいお店を見つけたけれど、靴を履き替えないと入れない」「神社の階段を登って景色を見たいけれど、滑って転びそうだから諦める」といった経験をしたことはないでしょうか。走ることそのものよりも、旅や観光も含めて楽しみたい人にとって、歩きにくい靴は大きな足かせとなってしまうのです。
準備が面倒で自転車に乗る頻度が下がってしまう本末転倒
ビンディングペダルを使用する場合、乗るたびに専用のシューズを履く必要があります。ちょっと近所のコンビニまで行きたい時や、街中を軽く流したい時でも、わざわざ専用シューズを用意しなければならないのは意外と面倒なものです。「今日は普通の靴で乗れないから、自転車はやめておこうかな」と、乗るまでのハードルが上がってしまうこともあります。
自転車は本来、もっと自由で気軽な乗り物であるはずです。機材や装備にこだわりすぎて、結果的に自転車に乗る頻度が減ってしまっては本末転倒です。「乗りたいと思った時に、履いている靴のままサッと乗り出せる」というシンプルさを求めて、ビンディングをやめる人も増えています。
フラットペダルに戻して実感する「自由」とメリット

様々な理由でビンディングペダルをやめた後、フラットペダル(ママチャリなどと同じ普通のペダル)に戻したライダーたちは、どのような変化を感じているのでしょうか。多くの人が口を揃えて言うのは、「精神的な解放感」と「自由度の高さ」です。ここでは、フラットペダルに戻すことで得られる具体的なメリットについて解説します。
専用シューズ不要!お気に入りのスニーカーで走れる気楽さ
フラットペダルにする最大のメリットは、靴を選ばないことです。普段履いているスニーカーやランニングシューズ、季節によってはサンダル(スポーツタイプなど脱げないもの)でも自転車に乗ることができます。専用の高価なシューズを買い換える必要もなく、ファッションの選択肢も大きく広がります。
服装に合わせて靴を選べるため、街中のおしゃれなカフェに入っても違和感がありませんし、通勤・通学で使う場合も革靴や作業靴のまま乗車可能です。「自転車に乗るための格好」を強制されない気楽さは、一度味わうと戻れないほどの快適さがあります。服装の自由度が高まることで、自転車がより生活の一部として馴染むようになります。
街中のストップ&ゴーが全く苦にならなくなる
信号が多く、頻繁に停止と発進を繰り返す日本の道路事情において、フラットペダルの利便性は圧倒的です。赤信号で止まるたびに「カチャッ」と足を固定し直し、外す時も足首をひねる動作が必要なビンディングとは違い、フラットペダルなら地面に足をスッと下ろすだけです。
特に交通量の多い市街地や、渋滞時のすり抜け(安全確認は必須ですが)、急な歩行者の飛び出しなど、とっさの判断が求められる場面での安心感が違います。「いつでもすぐに足がつける」という余裕があるだけで、街乗りでのストレスは激減します。結果として、周囲の状況にも目が向きやすくなり、安全運転にもつながります。
観光・グルメ・散策…降りてからの行動範囲が劇的に広がる
フラットペダルと歩きやすい靴の組み合わせなら、自転車から降りた後の行動範囲に制限がなくなります。気になる路地裏のお店に入ったり、長い階段を登って展望台へ行ったり、あるいは自転車を押して商店街を歩いたりといったことが、何の苦もなく行えます。
これは「ライド&ハイク」のような楽しみ方を可能にします。自転車で登山口まで行き、そこから登山を楽しむといったアクティブな使い方もフラットペダルならスムーズです。自転車を単なる移動手段としてだけでなく、旅を豊かにするためのツールとして最大限に活用できるようになるのは、大きなメリットと言えるでしょう。
足の位置を自由に変えられることで膝への負担が減る
先ほどデメリットの項目で触れた「膝の痛み」に対し、フラットペダルは有効な解決策になります。フラットペダルでは足が固定されていないため、走行中にペダルを踏む位置(足の置き場)を自由に変えることができます。登り坂では少し深めに踏んだり、疲れてきたら土踏まず寄りで踏んでリラックスしたりといった調整が自然に行えます。
また、信号待ちのたびに着脱の動作で膝や足首をひねる必要がないため、関節への負担も軽減されます。膝に爆弾を抱えている人や、長距離を走ると関節が痛くなりやすい人にとって、足の位置を微調整しながら走れることは、長く自転車趣味を続ける上で非常に重要な要素となります。
フラットペダル化する際に知っておきたいデメリットと対策

ここまでフラットペダルのメリットを強調してきましたが、もちろんデメリットも存在します。ビンディングペダルは「速く、効率よく走る」ために開発された機材ですので、それをやめることで失われる機能もあります。ここでは、フラットペダル化する際に知っておくべきデメリットと、それをカバーするための対策について解説します。
引き足が使えないことによる登坂力への影響
ビンディングペダルの最大の特徴は、ペダルを引き上げる力、いわゆる「引き足」を使えることです。これにより、踏み込む足だけでなく引き上げる足も動力に変え、パワーを効率よく伝えることができます。フラットペダルでは物理的に引き足が使えないため、特に急な坂道を登る際や、ゼロからの加速時にはパワー不足を感じることがあるかもしれません。
この対策としては、ギアを軽めに設定し、ケイデンス(ペダルの回転数)を上げてくるくると回すような走り方を意識することが有効です。重いギアを力任せに踏むのではなく、軽いギアでリズムよく回すことで、引き足がなくてもスムーズに登ることができます。
高速巡航時の足の安定感とズレ防止策
ロードバイクで高速巡航をしている時や、路面の凹凸を越える時、ビンディングなら足がペダルに吸い付いているため安定しますが、フラットペダルでは足がペダルから浮いたり、ズレたりするリスクがあります。特に雨の日や、靴底が濡れている状態では滑りやすくなり、踏み外してスネをペダルにぶつける「スネ打ち」をしてしまうこともあります。
対策として最も重要なのは、ペダル選びです。表面にスパイクピン(滑り止めの鋲)がついているタイプを選ぶことで、スニーカーのソールにピンが食い込み、驚くほどのグリップ力を発揮します。これなら多少の雨や段差でも足がズレにくく、ビンディングに近い一体感を得ることができます。
長距離ライドでの疲労感の違いはどう変わる?
一般的に、長距離(100km以上など)を走る場合は、ビンディングペダルの方が疲れにくいと言われています。これは引き足を使って使う筋肉を分散させたり、ソールが硬いシューズでパワーロスを防いだりできるからです。フラットペダルに変えると、どうしても「踏む」動作がメインになるため、太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)が疲れやすくなる傾向があります。
しかし、これはペース配分や休憩の取り方で十分にカバーできます。「速く走らなければならない」というプレッシャーから解放され、自分のペースで休憩を多めに取りながら走れば、フラットペダルでも100km程度のロングライドは十分に可能です。むしろ、足の位置を変えられることで、特定箇所の筋肉疲労を防げるという側面もあります。
ポジション出しの難しさとサドル高の調整
意外と盲点なのが、サドルの高さです。ビンディングシューズはソールに厚みがあり、さらにクリートの厚みも加わるため、ペダル軸から足裏までの距離が長くなります。一方、一般的なスニーカーはソールが薄く柔らかいものが多いため、そのままフラットペダルに変えると、サドルが高すぎると感じることがあります。
フラットペダルに変えた際は、サドルの高さを数ミリから1センチ程度下げて調整することをおすすめします。また、踏む位置がつま先寄りになったり土踏まず寄りになったりと変化するため、厳密な「正解のポジション」が出しにくいとも言えますが、逆に言えば「アバウトでも乗れてしまう」のがフラットペダルの良さでもあります。あまり神経質にならず、乗りやすい高さに調整しましょう。
ロードバイクでも快適!おすすめのフラットペダルの選び方

「フラットペダル」といっても、ママチャリについているような安価なプラスチック製のものから、マウンテンバイク(MTB)競技でも使われる高機能なものまで、種類は様々です。ロードバイクの性能を損なわず、快適に走るためには、以下のポイントを押さえてペダルを選ぶことが重要です。
グリップ力重視ならピン付きペダルが最強
ロードバイクやクロスバイクで使うなら、ペダルの表面に「スパイクピン」と呼ばれる滑り止めの鋲(びょう)が付いているモデルを強くおすすめします。ピンの高さは数ミリですが、これが靴のゴム底にしっかりと食い込むことで、ビンディングに迫る固定力を発揮します。
ピン付きのペダルであれば、雨の日でも滑りにくく、登り坂で力を込めて踏み込んだ時も足が逃げません。ピンは交換可能なモデルが多く、好みに応じてピンの高さを調整したり、数を減らして攻撃性を弱めたりすることも可能です。ただし、ピンは鋭利なので、停車時などにふくらはぎに当たらないよう注意が必要です。
踏み面の広さが安定感と疲れにくさを決める
ペダルの大きさ(踏み面の面積)も重要な選び方のポイントです。小さなペダルは軽量で見た目もスッキリしますが、足の裏を支える面積が小さいため、長時間乗っていると足裏の一点に圧力がかかり、疲れや痛みを感じやすくなります。
おすすめは、MTB用として販売されているような、踏み面が広めの「デカペダル」です。足裏全体を面で支えてくれるため安定感が高く、ダンシング(立ち漕ぎ)をする際もしっかりと体重を乗せることができます。見た目がゴツくなるのが気になる場合は、ロードバイクのデザインに馴染むよう設計された、薄型でスタイリッシュな幅広ペダルも販売されています。
回転性能とベアリングの重要性
ペダルは常に回転し続けるパーツなので、軸の回転性能(ベアリングの品質)が走りの軽さに直結します。安価なペダルは回転が渋く、手で回すとすぐに止まってしまいますが、高品質なペダルは指で弾くといつまでも回り続けるほど滑らかです。
回転が良いペダルは、ペダリングの抵抗が少なくなるだけでなく、信号待ちで足を離した際に、踏み面が常に踏みやすい位置に来てくれる(重量バランスが良い)というメリットもあります。少し予算を上げてでも、シールドベアリングを採用した回転の良いモデルを選ぶと、走りの気持ちよさが格段に変わります。
デザイン性で選ぶ愛車とのコーディネート
フラットペダルはデザインのバリエーションが豊富です。アルミ削り出しのクールなもの、ポップなカラーリングの樹脂製のもの、クラシックな革靴にも合う金属製のものなど、愛車の雰囲気に合わせて選ぶ楽しみがあります。
例えば、最新のカーボンロードバイクには薄型のアルミペダルが似合いますし、クロモリフレームの自転車にはシルバーのクラシックなペダルがマッチします。ペダルは自転車の顔とも言えるクランク周りの印象を大きく左右するパーツなので、機能性だけでなく見た目にもこだわって選んでみてください。
「やめた」後に楽しむ新しい自転車スタイル

ビンディングペダルをやめてフラットペダルにしたことは、決して「退化」や「諦め」ではありません。それは、より自由で、より広い楽しみ方への「進化」とも言えます。最後に、フラットペダルだからこそ楽しめる、新しい自転車のスタイルについて提案します。
ゆるポタ・カフェライドの本当の楽しさ
「ゆるポタ」とは、頑張らずにゆっくりとポタリング(散歩のようなサイクリング)を楽しむスタイルのことです。フラットペダルなら、気になっていたカフェやパン屋さんに気軽に立ち寄ることができます。お店の前で自転車を停め、普通の靴でカツカツと音を立てずに店内に入り、美味しいコーヒーを飲む。そんな時間を楽しめるのが最大の魅力です。
平均速度や走行距離といった数字を追いかけるのをやめ、「今日はあのお店に行ってみよう」「綺麗な景色が見えたら止まって写真を撮ろう」という目的に切り替えることで、自転車に乗る楽しさの質が変わります。競う必要のない、自分だけの時間を満喫しましょう。
輪行やキャンプツーリングとの相性の良さ
自転車を分解して電車などの公共交通機関に乗せる「輪行(りんこう)」や、荷物を積んでキャンプに行くツーリングにおいて、フラットペダルは最強の相棒になります。輪行では駅構内の移動や乗り換えで歩く距離が長くなるため、歩きやすい靴が必須です。
また、キャンプ場などの未舗装路(砂利道や土の上)では、ビンディングシューズだとクリートが詰まったり滑ったりして非常に危険です。フラットペダルとスニーカーなら、自転車を押して歩くことも、テントの設営をすることもスムーズに行えます。旅の要素が強くなればなるほど、フラットペダルのメリットは大きくなります。
景色を楽しみながら走る心の余裕
ビンディングペダルを使っている時は、どうしても「走ること」そのものに意識が集中しがちです。また、常に路面の状況や信号の変化に神経を尖らせているため、周りの景色を楽しむ余裕がなくなってしまうこともあります。
フラットペダルに戻すと、恐怖心や緊張感から解放され、心に余裕が生まれます。ふと見上げた空の青さや、道端に咲く季節の花、風の匂いなど、今まで見落としていた風景に気づくことができるようになります。スピードを落として、五感を使って楽しむサイクリングは、心身のリフレッシュに最適です。
ガチ勢のような見た目を気にせずカジュアルな服装で乗る
ピチピチのサイクルジャージにレーサーパンツという「ガチ勢」のような格好に抵抗がある人もいるでしょう。ビンディングシューズは、どうしてもスポーティーな服装とセットで考えられがちですが、フラットペダルならTシャツに短パン、あるいはチノパンにシャツといったカジュアルな服装が似合います。
街の風景に溶け込むファッションで乗れるため、通勤や通学、買い物といった日常生活の延長線上でロードバイクを活用できます。「スポーツをするぞ」と気負わずに、日常の足としてお洒落に乗りこなすスタイルも、現代の自転車ライフとして非常にクールです。
まとめ:ビンディングペダルをやめた選択は決して間違いではない
ビンディングペダルをやめた理由は人それぞれですが、共通しているのは「無理をして使い続けるよりも、自分が楽しく乗れる方法を選んだ」ということです。立ちゴケの恐怖や膝の痛み、歩きにくさといったストレスを抱えたまま乗り続けるよりも、フラットペダルに変えて心からサイクリングを楽しめるようになる方が、自転車趣味を長く続けるためにはずっと大切です。
フラットペダルには、ビンディングにはない「自由さ」と「気楽さ」があります。お気に入りの靴で、好きな服を着て、気になるお店に立ち寄りながら、自分のペースで走る。そんなスタイルのサイクリングもまた、素晴らしいものです。
「せっかくロードバイクに乗っているのだから」という固定観念にとらわれる必要はありません。もし今、ビンディングペダルに疲れてしまっているなら、一度フラットペダルに戻してみてはいかがでしょうか。そこにはきっと、忘れていた自転車の楽しさが待っています。


