自分だけのオリジナルホイールを組み上げる「手組みホイール」。自転車好きなら一度は憧れるカスタマイズの終着点とも言える深い世界です。完組みホイールにはない乗り味や、自分好みのパーツセレクトができる点が大きな魅力ですが、いざ挑戦しようとしたときに最初にぶつかる大きな壁があります。それが「スポークの長さ」の決定です。
「たかが数ミリの誤差でしょ?」と思って適当に選んでしまうと、ホイールが組めなかったり、走行中に破損してしまったりと、取り返しのつかない失敗につながることもあります。スポークの長さ計算は、手組みホイールの成功を左右するもっとも重要な設計図のようなものです。
この記事では、初めてホイールを組む人でも失敗しないよう、スポークの長さの計算方法や、そのために必要な各パーツの計測方法、そして計算機の使い方までをやさしく丁寧に解説していきます。正しい知識を身につけて、安全で高性能なホイール作りを楽しみましょう。
スポークの長さが重要な理由とは?基礎知識をチェック

ホイールを構成する部品の中でも、ハブとリムをつなぐ「スポーク」は、いわばサスペンションであり、動力を伝える筋肉のような存在です。その長さがなぜ1mm単位、あるいは0.1mm単位で重要視されるのでしょうか。まずは、長さが合わないとどのようなトラブルが起きるのか、その根本的な理由を理解しておきましょう。
長すぎる場合のリスク:ニップルの底付きでテンションが上がらない
計算した長さよりも長いスポークを選んでしまった場合、組み立ての最終段階で致命的な問題が発生します。それが「底付き」と呼ばれる現象です。
スポークはニップルというネジ状の部品で締め込んで固定しますが、ニップルの内部にはネジが切られている範囲に限界があります。スポークが長すぎると、ホイールのテンション(張り具合)がまだ十分に上がっていないのに、スポークのネジ先がニップルのネジ奥に突き当たってしまい、それ以上回せなくなってしまうのです。
テンションが低いゆるゆるのホイールは、走るとふにゃふにゃして進まないだけでなく、スポークが常にたわむことで金属疲労を起こし、すぐに折れてしまいます。「大は小を兼ねる」という言葉は、スポークの長さ選びには通用しないと覚えておきましょう。
短すぎる場合のリスク:ニップルの首飛びとホイールの破損
逆に、スポークが短すぎる場合はどうなるのでしょうか。一見、ネジさえ届けば組めるように思えますが、ここには強度に関わる大きな落とし穴があります。
一般的に使用される真鍮(ブラス)やアルミのニップルは、中空構造になっています。強度がもっとも必要なのは、リムの穴から顔を出している「首」の部分です。スポークの長さが適正であれば、スポーク自体がニップルの頭(マイナス溝や四角い部分)の近くまで入っているため、ニップルの首部分を内側から支えることができます。
しかし、スポークが短すぎてネジ山に少しかかっている程度だと、ニップルの首部分は空洞のまま高いテンションに耐えることになります。この状態で走行すると、衝撃に耐えきれずにニップルの首がポッキリと折れてしまう「首飛び」が発生します。走行中に突然バチン!と音がしてホイールが振れ出すのは非常に危険です。
1mmの違いが及ぼす影響について
「じゃあ、ぴったりジャストサイズじゃないとダメなの?」と不安になるかもしれませんが、現実には多少の許容範囲は存在します。しかし、その範囲は非常に狭いものです。
一般的に、スポークの長さの許容範囲は「適正値に対して±1mm以内」が理想とされています。もっと厳密に言えば、ニップルのマイナス溝の底から、ニップルの頭のてっぺんまでの間にスポークの先端が収まるのがベストです。
たった1mm違うだけで、ニップルの底付きが起きたり、逆にネジのかかりが浅くなって強度が落ちたりします。プロのホイールビルダーたちが、ノギスを使ってコンマ数ミリ単位で計測を行うのは、このわずかな差がホイールの寿命を決定づけることを知っているからなのです。
手組みホイールの性能を左右する「適正テンション」との関係
スポークの長さが適切であって初めて、ホイールを「適正テンション」まで張り上げることができます。適正テンションとは、リムやハブが許容する範囲内で、かつ走行性能を最大限に引き出せる張力の強さのことです。
長さが合っていないと、目標とするテンションに到達する前に作業を断念せざるを得なくなります。しっかりと張りがあり、反応の良いホイールを作るためには、事前の計算と計測が作業の8割を占めると言っても過言ではありません。
正しいスポークの長さを計算するために必要なデータ

スポークの長さを計算するためには、専用の計算式や計算ソフトを使いますが、そこに「正しい数値」を入力しなければ正しい答えは返ってきません。ここでは、計算に必要な各部の名称と、その正確な測り方について解説します。カタログ値を鵜呑みにせず、できるだけ現物を実測することが成功への近道です。
リムの有効直径(ERD)の正確な測り方
スポーク長計算において、もっとも間違いやすく、かつ計算結果に大きな影響を与えるのが「有効リム径(ERD: Effective Rim Diameter)」です。これは単純なリムの内径ではなく、ニップルをセットした状態で、対角線上の「ニップルの溝底(または頭)」同士の距離を指します。
メーカーが公表しているERDの値が、実際の製品と数ミリずれていることは珍しくありません。必ず以下の手順で実測することをおすすめします。
【ERDの実測手順】
1. 2本のスポークを適当な長さに切り(200mm程度)、それぞれのねじ切り部分にニップルを、「ニップルの頭とスポークの端がツライチ」になる位置まで正確にねじ込みます。
2. この2本のスポークを、リムの対角線上にある穴にそれぞれ差し込みます。
3. リムの中心で2本のスポークが重なるようにし、ピンと張った状態で、スポークの端から端までの長さをメジャーで測ります。
4. 測った長さに、それぞれのスポークの長さ(例:200mm + 200mm = 400mm)を足したものが、そのリムの正確なERDとなります。
この方法であれば、ニップルの形状や個体差も含めた「実際に組む時の径」を正確に割り出すことができます。
ハブの寸法計測(PCD・フランジ間距離)
次にハブの寸法です。ハブで測るべき箇所は主に3つあります。
1つ目はPCD(Pitch Circle Diameter)です。これはハブのフランジ(つばの部分)にあるスポーク穴の中心を結んだ円の直径です。ノギスを使って、対角線上の穴の中心から中心までの距離を測ります。ハブによっては左右でフランジの大きさが異なる場合があるので、必ず左右両方を計測してください。
2つ目はフランジ間距離(Center to Flange)です。ハブの中心(車体の中心線)から、左右のフランジまでのそれぞれの距離です。これは「ハブ全体の幅(OLD)÷ 2」から、「フランジから端までの距離」を引くことで算出できます。
3つ目はOLD(オーバーロックナット寸法)です。ハブの端から端までの長さで、ロードバイクのフロントなら100mm、リアなら130mmや142mmなどが一般的です。
オフセット量の確認と左右差の理解
リアホイールやディスクブレーキ用のホイールを組む場合、ハブのフランジ位置は左右対称ではありません。スプロケットやディスクローターを取り付けるスペースが必要なため、フランジが中心からズレています。
このズレによって、左右のスポークの長さは異なります。さらに、リム自体が「オフセットリム」と呼ばれる、スポーク穴が中心からずれているタイプの場合もあります。この場合はリムのオフセット量も計算機に入力する必要があります。
左右非対称の設計は、ホイールの左右のテンション差を是正するための工夫ですが、計算を複雑にする要因でもあります。どの数値が「右(ドライブサイド)」で、どれが「左(ノンドライブサイド)」なのか、メモを取りながら慎重に進めましょう。
スポーク穴の直径とハブ穴径の関係
忘れがちなのが、ハブのスポークを通す穴の直径です。一般的なハブの穴径は2.4mm〜2.6mm程度です。この穴径も計算式に微妙に関わってきます。
また、使用するスポークの太さが穴径に対して適切かどうかも確認が必要です。通常の14番(2.0mm)スポークなら問題ありませんが、エアロスポークなどの特殊な形状のものを使う場合は、穴に通るかどうかを事前に確認しておきましょう。
組み方(クロス数)で変わるスポークの長さ

パーツの計測が終わったら、次は「どう組むか」を決めます。ホイールはスポークを交差させて組むのが一般的ですが、この交差のさせ方によって必要な長さは大きく変わります。自分の用途に合った組み方を選びましょう。
ラジアル組みとタンジェント組みの違い
もっとも基本的な違いは、「交差させるか、させないか」です。
ラジアル組みは、ハブからリムへ放射状に最短距離で真っ直ぐ伸ばす組み方です。交差しないためスポークの長さはもっとも短くなり、軽量に仕上がります。見た目もすっきりして美しいですが、ハブの回転力(トルク)を伝えるのが苦手なため、基本的には前輪や、後輪の反フリー側(左側)にのみ使用されます。
タンジェント組みは、スポークを斜めに出して途中で他のスポークと交差させる組み方です。駆動トルクやブレーキのねじれに強く、乗り心地もしなやかになります。後輪やディスクブレーキホイールでは必須の組み方です。
4本組み・6本組み・8本組み(クロス数)の影響
タンジェント組みには、交差させる数によって種類があります。これを「クロス数」と呼びます。
4本組み(2クロス):1本のスポークが他の2本のスポークと交差する組み方です。スポーク長は比較的短く、横方向の剛性が高くなりやすい特徴があります。
6本組み(3クロス):もっとも一般的な組み方で、3本のスポークと交差します。長さ、剛性、振動吸収性のバランスが良く、初めての手組みならこの組み方がおすすめです。
8本組み(4クロス):4本と交差させるためスポークはかなり長くなります。クラシックなランドナーやツーリング車など、36ホールの多スポークホイールでよく用いられます。
クロス数が増えるほど、スポークはハブの円周に沿うように寝ていくため、必要な長さは長くなります。計算機に入力する際は、この「クロス数」を間違えないように注意してください。
左右で組み方を変える場合の考え方
上級者の組み方として、リアホイールの左右で組み方を変える方法があります。例えば、力の伝達が必要な右側(フリー側)を6本組みにし、左側をラジアル組みにする、といった具合です(通称「ヨンロク組み」などの変形版もあります)。
このように左右で組み方を変える場合は、計算機でも「Left」「Right」それぞれのクロス数を個別に設定して計算する必要があります。左右で長さが数ミリ〜1センチ以上変わることもあるので、購入時に混同しないよう注意が必要です。
実際の走行シーンに合わせた組み方の選び方
どの組み方が正解、というのはありませんが、用途によって向き不向きはあります。
ロードバイクでヒルクライム用に軽くしたいなら、フロントはラジアル組み、リアは可能な限りスポークを短くできる構成を選ぶのが定石です。一方、毎日の通勤やツーリングで耐久性を重視するなら、前後ともに6本組み(3クロス)で組むのがもっともトラブルが少なく、乗り心地もマイルドになります。
自分の体重や走り方に合わせて、「剛性重視」か「軽さ重視」か「快適性重視」かを決め、それに適したクロス数を選択してから長さを計算しましょう。
失敗しない!スポーク長計算機の活用術

ここまで揃えたデータを使って、いよいよ計算を行います。現在は複雑な数学の公式を自分で解く必要はなく、ウェブ上の優秀な計算機(カリキュレーター)を使えば一発で算出できます。
おすすめのスポーク長計算ツール(DT Swissなど)
世界中のホイールビルダーが愛用しているのが、スイスのスポークメーカー「DT Swiss」が提供している「Spoke Calculator」です。アカウント登録が必要な場合もありますが、非常に高機能で精度が高く、同社のスポークやニップルを使う場合は補正値まで考慮してくれます。
また、日本のユーザーに人気なのが「自転車探検!」などの日本語サイトで公開されている計算ツールです。日本語で各項目の説明があり、シンプルで使いやすいため、初心者にはこちらが特におすすめです。
念のため、1つの計算機だけでなく、2〜3つの異なる計算サイトで同じ数値を入力し、結果に大きな差がないか確認すると安心です。
計算機に入力する数値の確認ポイント
計算機に入力する際、もっとも注意すべきは数値の単位と場所です。「半径」なのか「直径」なのか、「フランジ間距離」なのか「中心からの距離」なのか、ツールによって入力項目の定義が微妙に異なることがあります。
多くの計算機では、以下の項目を入力します。
- リムのERD(mm)
- ハブのPCD(左・右)
- ハブの中心からフランジまでの距離(左・右)
- スポーク穴の数(ホール数)
- クロス数(左・右)
これらの数値を入力してボタンを押すと、左右それぞれの推奨長さが表示されます。
計算結果の端数処理はどうする?切り上げ・切り捨て
計算結果は「291.3mm」のように小数点以下まで表示されますが、市販されているスポークは通常1mmまたは2mm刻みです。この端数をどう処理するかが、最後の悩みどころです。
一般的には「小数点以下は切り捨て」、あるいは「計算値に近い偶数を選ぶ(±1mm以内)」のがセオリーと言われています。たとえば「291.7mm」と出た場合、292mmを選ぶか291mmを選ぶかですが、長いと底付きのリスクがあるため、どちらかといえば短い方(291mm)を選ぶ方が安全なケースが多いです。
ただし、最近のニップルは精度が良いため、計算が正確であれば四捨五入でも問題なく組めることが多いです。もし奇数サイズが手に入らない(290mmと292mmしか売っていない)場合は、計算値が291.3mmなら「290mm(-1.3mm)」でも組めますが、292mm(+0.7mm)の方がニップルのかかり代としては安心かもしれません。このあたりは、使うニップルの長さやワッシャーの使用有無によっても微調整が可能です。
迷った場合は、購入するショップに「計算結果は〇〇mmだったのですが」と相談してみるのが一番確実です。
スポークの種類や購入時の注意点

長さが決まったら、いよいよスポークの購入です。しかし、スポークには長さ以外にも種類や素材の違いがあります。これらもホイールの性格を決める重要な要素です。
ストレートとバテッドスポークの違い
スポークの形状には、大きく分けて2つのタイプがあります。
プレーンスポーク:端から端まで太さが均一なスポークです(例:2.0mm)。安価で強度が高く、折れにくいのが特徴です。練習用ホイールやツーリング用におすすめです。
バテッドスポーク:両端は太く、真ん中の部分だけ細く加工されたスポークです(例:2.0-1.8-2.0mm)。軽量化と、適度な「しなり」による乗り心地の良さが特徴です。価格は少し高くなりますが、ロードバイクの手組みでは主流となっています。
ステンレスとスチールなど素材の選び方
現在のスポーツ自転車用スポークは、ほとんどがステンレス製です。錆びにくく、強度と耐久性のバランスが優れています。安価なママチャリなどの補修用として「鉄(亜鉛メッキ)」のスポークも売られていますが、スポーツバイクのホイールを組むなら必ずステンレス製を選びましょう。
色はシルバーとブラックが一般的です。ブラックは塗装や酸化皮膜処理が施されている分、わずかに価格が高いことが多いですが、性能に大きな差はありません。
ニップルの長さも計算に含めるべきか
ニップルには12mm、14mm、16mmといった長さの種類があります。基本的には標準の12mmを使用しますが、リムの厚みがある場合や、計算したスポーク長が少し足りない場合の調整用として長いニップルを使うこともあります。
ただし、長いニップルを使っても、ネジが切られている部分の位置が変わらなければ、スポークの適正長さは変わりません。DT Swissなどの計算機ではニップルの長さも入力項目にある場合があり、その場合は自動で補正してくれますが、基本的には「ERDの計測時に使うニップル」と同じ長さのものを使用するのが原則です。
予備のスポークは持っておくべき?
スポークはバラ売りで1本から買える店もあれば、4本や10本セットでの販売となる場合もあります。ホイールを組む際は、計算上の本数ギリギリではなく、左右それぞれ2〜3本の予備を含めて購入することを強くおすすめします。
組み立て中にネジをナメてしまったり、曲げてしまったりするミスは初心者にはよくあることです。また、完成後に走行して折れてしまった場合、同じ銘柄・同じ長さのスポークをすぐに手に入れるのは意外と大変です。予備があれば、万が一のトラブルでもすぐに修理して走り出すことができます。
まとめ:スポークの長さを正しく理解して理想のホイールを組もう
手組みホイールにおける「スポークの長さ」は、完成度と安全性を決定づけるもっとも重要な要素です。適当に選んでしまうと、組めないどころか走行中の事故につながるリスクもあります。今回のポイントを振り返ってみましょう。
・スポーク長は±1mm以内の精度が理想。長すぎは底付き、短すぎは破損の原因になる。
・リムの有効直径(ERD)はカタログ値を信じず、必ず実測する。
・ハブのPCDやオフセット量も正確に測り、組み方(クロス数)を決めてから計算する。
・計算結果の端数は、底付きしない範囲で近い値を選ぶか、ショップに相談する。
・予備のスポークも含めて少し多めに購入しておくのが安心。
最初は計測や計算が面倒に感じるかもしれませんが、ここを丁寧に行うことで、驚くほどスムーズにホイールを組み上げることができます。自分で計算して選んだスポークで組んだホイールは、愛着もひとしおです。ぜひ、世界に一つだけの最高のホイール作りを楽しんでください。

